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2010.11.22

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話せる英語のサイエンス

英語のコミュニケーションにこんなに苦労するのはなぜ? 最新科学が解き明かすリスニングとスピーキングの秘密

2010年11月22日(月)10時00分
井口景子(東京)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン)、ジェニファーバレット、ブライアン・ブレーカー(ニューヨーク)

辞書を片手に英文メールを書くことはできても、外国人と英語で会話するのは苦手──多くの日本人がかかえる悩みの「正体」が、言語学や心理学、脳科学の最新研究で明らかになってきた。「聞き取れない・話せない」のハードルを乗り越える効果的な学習法とは?

 近未来を思わせるTOKYOの摩天楼と、新宿・歌舞伎町の猥雑な空気、そしてとびきりクールなカルチャーシーン──大ヒットしたハリウッド映画『ロスト・イン・トランスレーション』は、フジヤマとゲイシャではない日本の「今」を世界に印象づけた。

 ただし一つだけ、21世紀を迎えた今も変わらない「伝統」も描かれている。日本人の英語だ。英語でジョークを言われても、なんの反応も示さない寿司職人。アメリカ人旅行者に向かって、日本語でまくしたてる病院の受付係。カタカナ発音のせいで、まったくかみ合わない会話......。

 「日本人はなぜLとRが苦手なの?」とつぶやく女友達に、ビル・マーレイがあきらめきった表情で言う。「ふざけてるのさ。まちがった発音を楽しみたいんだ」

 残念ながら、ふざけているわけではなさそうだ。学校の英語教育がコミュニケーション重視に変わってから10年以上。英会話スクールにはビジネスマンが殺到し、書店の棚は英語学習のハウツー本であふれている。それなのに、日本人はなぜ相変わらず、英語に手こずっているのか──映画と同じ疑問をいだきながら、英会話のテキストと格闘している日本人は少なくない。

 イギリス南部の町チェルトナムにある語学学校インリンガ・チェルトナムでも、その傾向は顕著だ。入学時のクラス分けテストで「日本人は読み書きではかなりの点数を取る。勤勉でやる気もある」と、指導主任のニック・アーノットは言う。「でもなぜか、上位クラスに入るのに必要なリスニングとスピーキング力が足りない」

 そう言っていられない時代が、すでに訪れている。外資系企業の日本進出が加速し、英語はパソコンと並ぶオフィスの必需品になった。外国のクライアントと英語で直接交渉する必要性も、これまでになく高まっている。

 社会のニーズを反映して、英語検定試験も変わりつつある。英語圏への留学希望者などが受験するTOEFLは、2005年9月に「次世代TOEFL」にモデルチェンジする。文法問題が消え、スピーキングの試験が必須になる予定だ。ビジネスに必要な英語力を測るTOEICも、数年以内にスピーキングと作文のセクションを加える準備を進めている。

 「必要は発明の母」という言葉は、英語の世界にもあてはまるようだ。外国語学習者の切実な悩みをなんとか解決しようと、言語学や心理学、脳科学などの専門家も腰を上げはじめた。日本人特有の要因からすべての大人に共通する問題まで、「聞き取れない・話せない」を生む「病魔」の正体が徐々に明らかにされつつある。

 「癌を根治することはできなくても、科学は多くの病気を治してきた」と、ピッツバーグ大学で第2言語習得を研究するロバート・デカイザー助教授は言う。「外国語も同じだ。大人が外国語を学ぶ手助けをするために、科学者ができることはたくさんある」

 人間が言葉を習得するメカニズムの大半は、まだブラックボックスの中にある。今の段階ではっきりわかっているのは、言葉を使いこなすのは途方もなく高度な情報処理プロセスということだ。

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