最新記事

激減ウミガメは保護では救えない

マグロが消える日

絶滅危惧種指定で食べられなくなる?
海の資源激減を招いた「犯人」は

2010.03.11

ニューストピックス

激減ウミガメは保護では救えない

産卵地を手厚く守っても個体数の減少が止まらないのはなぜか

2010年3月11日(木)12時04分
ジェリー・アドラー

 ウミガメは野生の爬虫類のなかでもとくに人間に愛され、大切に扱われている。外見は醜いが、産卵時の不屈の姿が人の心を打つ。

 何億年も前から、ウミガメは海から砂浜にはい上がって卵を産んできた。ドキュメンタリー番組で紹介されたり、海洋生物学者がその行動を追跡したり、自然保護ボランティアが卵からかえったばかりのカメを水際まで手で運んでやったりする、そのずっと前からだ。

 主要な産卵地であるノースカロライナ州からフロリダ州にかけての大西洋沿岸では、米政府によって厳重な保護策が取られている。これだけ手厚く守ってあげているのだから、ウミガメも人間への感謝の気持ちを込めて、絶滅の危機から逃れてくれてもよさそうなものだ。

 だが、自然は人間の思いどおりにはならない。米魚類野生生物局が昨年発表した報告書によれば、北大西洋に生息する6種類のウミガメのうち、数種の個体数が大幅に減っている。とくに最大で体重180キロ程度まで成長するアカウミガメが危ない。

 環境保護団体オセアナの海洋生物学者エリザベス・グリフィンによると、最大のウミガメ産卵地であるフロリダ州南部の個体数は過去10年間で半減したという。

成長後に海で過ごす期間が危ない

 このためオセアナは米政府に対し、北大西洋のアカウミガメの保護レベルを「絶滅のおそれ」から「絶滅危機」に引き上げるよう求めた。保護措置を追加しなければ絶滅してしまう状態を意味する。これとは別に米政府は07年11月、太平洋側に生息するアカウミガメを「絶滅危機」種に指定することを検討していると発表した。

 いったいどうすればウミガメを絶滅から救えるのだろうか。グリフィンによれば、陸上で過ごす数週間(産卵期のメスと卵、子ガメ)は十分に保護されている。問題は海で過ごす何年もの期間だ。

「脅威になるのは漁業だ」と、グリフィンは言う。大きな網で海底をさらう底引き網漁や、釣り針がついた縄を数キロにもわたって延ばすはえ縄漁が、ウミガメを大量に捕獲してしまう。オセアナは、こうした「混獲」に関する厳しい規制と、大西洋沿岸の保護水域の設定や拡大を求めている。

 ウミガメが危機に瀕している背景には、他の環境問題と同様、地球温暖化と自然環境の破壊がある。産卵場所である狭い砂浜は、海岸の開発と海水面の上昇によってさらに狭められている。

 これらの問題にも対処しなければ、恐竜より長生きしてきたウミガメは絶滅するだろう。そのとき私たちの子孫は、これほど醜い生物がなぜこれほど愛されたのかを知りたいと思うにちがいない。

[2008年3月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は4日ぶり反落、米株安を嫌気 TOPIXは

ビジネス

焦点:チャットGPTに運用頼る投資家、加速する「ロ

ビジネス

米ストーンピーク新アジアインフラファンド、目標40

ワールド

スペインも軍艦船派遣、ガザ支援船団へのドローン攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 7
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 8
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 9
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中