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在日米軍の理念なき迷走

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2009.11.10

ニューストピックス

在日米軍の理念なき迷走

ヘリ墜落事故と米軍再編があっても、沖縄の基地問題が改善される日は遠い

2009年11月10日(火)12時36分
ジョン・バリー(本誌軍事担当)、横田孝(東京)

 沖縄県民の感情を逆なでした宜野湾の米軍ヘリ墜落事故。ブッシュ政権が発表した在外米軍再編計画に事態の改善を期待する声もあるが、本誌が得た内部情報から見えてきたのはやはり身勝手なアメリカの姿だった。

 昨年11月、ドナルド・ラムズフェルド米国防長官が沖縄を視察したときのこと。宜野湾市の市街地の真ん中にある普天間基地を上空から見て、彼はこうもらしたという。「こんな所で事故が起きないほうが不思議だ」

 その宜野湾で8月13日、米海兵隊のCH53Dヘリが沖縄国際大学の構内に墜落。乗員3人が負傷したが、幸い市民にはケガ人が出ず、建物などの損害も比較的軽かった。

 それでも、沖縄の反米軍感情は再び沸騰した。「これまで再三再四、市の上空で飛行訓練を行わないように在日米軍や日米両政府に申し入れてきた」と、宜野湾市基地政策部の山内繁雄次長は言う。「なのにこの事件が起きて、強い怒りを覚える」

 一方で米政府は、例によって現地の感情を理解しそこねていた。当局者は、それほど大きくもない事故で噴き出した「ヒステリー」にいらだっていた。沖縄の地元自治体は事故が起きるたびに住民の怒りをあおると、見下すように語った米軍高官もいた。

 しかし米政府高官も沖縄県民も、結論の部分では一致している。「(米軍は)沖縄で歓迎されなくなってからも長居しすぎた」と、ブッシュ政権の当局者は言う。

 沖縄に駐留する約2万人の米海兵隊は、長年にわたって移転先を探してきた。ここにきて、その動きが進む可能性が出てきたようだ。ジョージ・W・ブッシュ米大統領は8月16日、向こう10年間で在外米軍を7万人削減する構想を発表。「チャンスとしてとらえているし、計画に普天間が含まれることを願っている」と、山内は言う。

 8月27日にはワシントンで日米の局長級協議が開かれ、約4万人の在日米軍の一部移転について話し合いが行われた。目標は、在日米軍の戦力を維持しながら、今より目立たない存在にすること。そして最大の焦点は、移転費用を日米でどう分担するかだ。

 ブッシュや小泉純一郎首相にしてみれば、在日米軍の再編は政治的な点数かせぎになる。米軍のスリム化と機動力の向上というラムズフェルドの構想に賛成する米国防総省の幹部にも朗報だ。

 だが一方で、ブッシュ政権の米軍再編計画はアメリカの世界戦略にとってマイナスになるという批判も噴き出している。

 「この計画は同盟国に何をもたらし、どんな結果を生むのか」と、カーター政権で国家安全保障問題担当補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキーは言う。「東アジアではむしろ不安定化を招くのではないかと、憂慮している」

外交政策への影響を見落とすブッシュ

 大統領選が大詰めを迎えるなかで発表されたブッシュの再編計画は、米軍にとってほぼ60年ぶりの大改革だ。ラムズフェルドはこの構想に3年を費やし、国防総省と国務省の高官はここ1年以上、いくつかの具体的な再編プランを各同盟国に説明してきた。

 しかし、アジア太平洋地域はもちろん欧州でも、最終決定にいたった再編プランはほとんどない。詳細を知らされていなかった日本やドイツの政治家は、ブッシュの発表に大あわてし、自国民に具体的な内容を説明できずにいる。ワシントン駐在のある欧州の外交官に言わせれば、ブッシュの再編計画は「この政権の同盟国に対する態度の縮図」だ。

 ラムズフェルドの軍事的ブレーンは、今回の再編計画は理にかなっていると主張する。冷戦が終結して13年がたった今、アメリカが以前のような規模の兵力を世界各地に展開する必要はなくなった。

 現在の米軍は、米本土の基地から数日以内に世界のどこにでも展開できる、よりスリムで機動力のある軍隊へと変身しつつある。さらに軍事技術の進化によって、兵士の数だけで軍隊の戦闘力を語る時代は終わった......。

 だがブッシュ政権は軍事的な側面にとらわれるあまり、外交政策への影響を見落としているという批判もある。「(再編計画には)一貫した戦略が感じられない」と、ブレジンスキーは言う。「一応は戦略があるのかもしれないが、納得のいく説明はまだない」

 とくにあいまいなのは太平洋地域の戦略だと、ハーバード大学ケネディ政治学大学院のジョセフ・ナイ学長は指摘する。

 95年、クリントン政権の国防次官補だったナイは、アメリカの対アジア戦略を方向づける「東アジア戦略報告」(ナイ・リポート)を作成。米軍が極東地域で10万人規模の「目に見える」兵力を維持することで、地域の安定を形成し、さまざまな突発的危機に対応するとともに、将来の脅威にそなえるという基本路線を定めた。だがブッシュ政権は、その構想を完全にほごにしようとしているとナイは主張する。

 欧州では冷戦の終結で、安全保障をめぐる環境が大きく変わった。「だが、アジアでは何が変わったのか」と、ナイは言う。「緊張度は相変わらず高く、朝鮮半島には冷戦構造がそのまま残っている」

 ナイによると、アメリカは東アジアで二つの安全保障上の問題をかかえている。一つは北朝鮮の核問題であり、もう一つは中国の軍事力増強が地域に与える影響だ。「この二つの問題は、95年当時とまったく変わっていない」

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