最新記事

鳩山外交のブレは大いに結構

オブザーヴィング
鳩山政権

話題の日本政治学者
トバイアス・ハリスが現在進行形の
「鳩山革命」を分析する

2009.10.26

ニューストピックス

鳩山外交のブレは大いに結構

インド洋給油活動と普天間飛行場問題をめぐり党内が分裂しているが、必ずしも悲観することはない

2009年10月26日(月)15時37分

[2009年10月9日更新]

 バラク・オバマ米大統領が11月のアジア歴訪で真っ先に日本を訪れるのに合わせて、鳩山政権は民主党と米政府の間に横たわる2つの懸案事項について立場を明確にしようとしている。すなわち、インド洋での給油活動継続と米軍普天間飛行場の移設問題だ。

 インド洋給油については、長島昭久防衛政務官が今月5日に自分の選挙区で行った講演が物議をかもした。長島は講演で、新テロ対策特別措置法を改正し、自衛隊派遣の国会事前承認を盛り込んだうえで、補給(給油)活動を続けるべきだ、と主張したのだ。

 だがこの発言に対して、長島は上司である北沢俊美防衛相と社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相、さらには平野博文官房長官から注意を受けた。平野は長島を呼び出し、政府として検討中の事案に対して個別の意見発信は控えるようにと注意した。

 長島は政府見解と異なるだろう見解を明らかにするために、選挙区での講演を利用すべきではなかった。(「だろう」というのは、鳩山政権のアフガニスタン政策がまだ固まっていないから。はっきりしているのは、給油活動の単純延長はないということだけだ)。

 それでも鳩山政権内部の不一致を1つ1つあげつらって、政府は内部崩壊しているなどと書き立てるべきではない。これは、亀井静香金融・郵政相が中小企業向け融資などの返済を猶予する「モラトリアム」推進発言をした際の報道にも通じる。以前も述べたが、意見の相違のない政府などどこにもない。重要なのは反対意見をどうコントロールするかということだ。

 鳩山政権はアフガニスタン政策を議論するとき(訪日したオバマに「何か」を用意する必要がある)、その話し合いに長島を参加させるべきだ。反対意見を述べているということもあるが、彼は米政府に太いパイプをもち、言うまでもないが安全保障問題に精通している。反対意見をただ黙らせるというのは(それが正しければなおさら)政府のためにならない。

現政権がいま外交問題に集中する理由

 普天間移設問題は給油活動とは異なる。政権内部の不協和音に対処するというより、鳩山政権は再交渉に関心がない米政府と、基地問題の解決を望む沖縄県民の間で立ち行かなくなっている。

 このため鳩山首相は7日、これまでの民主党の立場を再考し、米軍再編についての日米合意を容認する用意があることを示唆した。鳩山だけではなく、9月に沖縄視察を終えた北沢も「沖縄ビジョン」で民主党が掲げた米軍普天間飛行場の県外移設は極めて困難だと発言した。鳩山政権は県内移設を容認するかどうかまだ検討中だが、自分たちがベストと信じる案を強引に推すことはないだろう。

 いずれも正しい判断だ。オバマの訪日が形式的なものでなくなるし(岡田克也外相は9月、NHKで普天間移設や給油活動継続、アフガニスタン政策についてオバマの初来日までに結論を出す方針を示した)、オバマの訪日後は外交政策が1面で報じられることがなくなり、来年の予算編成や独自政策を実現するための財源捻出に集中できる。

「アメリカ批判」の限界を知る民主党

 民主党が日米関係で米政府に妥協すれば、連立のパートナーが文句を言うのは間違いない。だが民主党がいまこういった問題を処理しておけば、自民党は来年の参議院選前に民主党の外交政策を攻撃することが難しくなる。来年締結50周年を迎える日米新安全保障条約の祝賀ムードに水を差すこともない。

 今のところ、民主党に日米安保50周年を台無しにする考えはないようだ。民主党は反米主義だというありきたりな批判とは異なり、選挙中に見せた柔軟性がうわべだけではないこと鳩山政権は示している。

 民主党は米政府と喜んで妥協するだろう。アメリカ批判を政治の道具にするには限界があることも知っている。歩み寄りした後の政策はまだ見えていないが、妥協することはほぼ間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中