コラム

中国外交トップ「チンピラ発言」の狙いは自分の出世?

2021年03月23日(火)12時33分

「北轍南轅」のトンチンカン外交

そして楊氏の反米演説の及ぼす影響はおそらく、1回の米中会談を壊したことにとどまらない。中国外交のトップがアメリカを公然と罵倒し一切の妥協をしない超強硬姿勢を衆目環視の中で示したことは、米国内の対中世論・対中認識の悪化にさらに拍車をかけていくこととなろう。そうなると、バイデン政権は中国との関係をある程度改善しようとしても、国内世論の反発を恐れてそれがなかなかできない。つまり、中国側が期待していた米中関係の改善はより一層難しくなっていく。

さらに、楊氏が反米演説で発した「アメリカの価値観を国際社会の価値観として認めない」のような言葉は、「中国こそはわれわれの価値観の挑戦者」というアメリカ国内の中国警戒論をさらに助長する結果となろう。もちろんそれは、より根本的なところで米中間対立の深化を招き、アメリカの対中姿勢と政策をより一層の強硬化につながる。

そういう意味で、常に国内政治を意識し国内政治を最優先する中国の外交は時に当初の意図するところと正反対の方向へ走っていくことがある。まさに「北轍南轅(ほくてつなんえん、意志と行動が別の方向を向いていて互いに反していること)」の頓珍漢外交そのものである。国内政治を優先すべきか国益のための外交を優先すべきなのか、それこそ中国外交の抱える永遠のジレンマなのである。

筆者の立場からすると、一度の点数稼ぎのために米中関係を根底から壊してしまった楊氏が「日本のために大変良い仕事をしてくれた」ようにも思えるのだが。

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プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

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