コラム

「驕る習近平は久しからず」中国コワモテ外交の末路

2020年10月01日(木)17時37分

EUと人権問題をめぐり大口論

この一連の経緯を見ていると、菅政権誕生のその日から、中国側と習主席は菅新首相に大いに期待しながら、菅新首相の手でずっと翻弄されている様子が分かる。不思議なことに、中国側はそれでも怒りや不満を顔に出さず、首脳会談の直後から日本政府との間で王毅外相の早期訪日の調整に入ったという。王毅訪日の最大の目的は、宙に浮いたままの習主席の国賓訪日の実現を図るべく、日本側に再度働きかけることに違いない。菅首相にあれほど冷たくされていても、習主席は依然として、国賓として日本訪問を熱望している様子である。

20年以上にわたって中国外交を観察してきた私は、中国政府が近隣国に対してそれほどまでに下手に出るのを見たことがない。普段ではあれほど傲慢にして自意識の高い中国は一体どうして、菅政権にこのような卑屈な外交を展開しているのか。その最大の原因はやはり、習近平政権の行いが招いた中国の孤立化にあるだろう。

周知のように、中国は今、超大国のアメリカとの対立を深めている一方、インドやオーストラリアなどのアジア太平洋地域の主要国との関係もことごとく悪化させている。そして例の香港国家安全維持法の施行以来、香港の元宗主国のイギリスとの関係も悪くなり、イギリスはついに国内の5G事業から中国企業のファーウェイを排除するに至った。

その中で中国は、EUとの連携を強めて「連欧抗米路線」の模索を始めていたが、それもあまり成功していない。

8月25日から1週間、王毅外相はイタリア・フランス・ドイツなどEU5カ国を歴訪したが、旅の途中で王氏が最近台湾を訪問したチェコ上院議長を恫喝した一件は逆にフランスとドイツの猛反発を招き、中国自身の「欧州取り込み工作」を破壊した。

今月14日、習主席はEU首脳とのオンライン式会談に自ら臨み、「欧州取り込み工作」に取り込んだが、結果はそれほど芳しくはない。この会談において、習主席とEU首脳が交渉中の投資協定の早期締結を合意したものの、ミシェルEU大統領は人権問題で懸念を伝え、習主席は「われわれには『人権の先生』は要らない」と猛反発。首脳会談は結局、人権問題・香港問題・南シナ海問題などに関する双方の対立を残したままで終わり、中国とEUとの亀裂を露呈した。

今の中国外交はまさに四面楚歌の状況だ。こうした中、西側先進国とアジア・太平洋地域において重要な一角を占める日本で新しい首相が誕生したことは、習政権からすれば外交的逆境の突破口を作る絶好のチャンスだろう。だからこそ習主席はアメリカやEU各国首脳に先んじて熱烈な祝電を菅新首相に送ってきた。

こうした切実な理由があったからこそ、習近平政権は恥も外聞も捨てた対日外交を展開しているわけだが、よく考えれば、このような姿勢は習政権初期のそれとはまさに雲泥の差がある。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉

ビジネス

中国の対欧輸出増、米関税より内需低迷が主因 ECB

ビジネス

インフレリスクは均衡、想定より成長底堅い=クロアチ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story