コラム

「マスク着用義務に反対!」のため、米共和党の人気議員が放ったトンデモ発言

2021年06月15日(火)19時48分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
共和党のグリーン下院議員(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<共和党の「顔」とも言える人気議員MTGだが、今回だけでなく過去にもひどい問題発言を連発している人物だ>

アメリカンジョークの1つに、人、モノ、事柄などをバカにする「○○? More like(というより)○○!」というテンプレートがある。前半に正式名称、後半にそれをもじったダジャレ的けなし文句。日本語でも使えるかも。現に、「クリントン大統領? More like不倫トン大統領!」が一時期、在日アメリカ人の間ではやった。今なら新型コロナワクチン接種の遅延を受けて「コロナ対策? More likeノロな対策!」とか。ぜひ使ってみていただきたい。大体滑るけど。

風刺画でこのパターンを生かしているのはMTG(マージョリー・テイラー・グリーン下院議員)。「House chamber? More like the gas chamber!(議院室というより、ガス室だね)」と。普段だったら、意外にも許されるジョークだ。厳しく非難されることやドン滑りすることを「殺される」と例えることはよくあるから、議場で演説が滑ったときに使えそう。

だがMTGの場合、そういうわけにはいかない。なぜなら、彼女はテレビ番組で下院でのマスク着用義務を「ナチスドイツでは大勢が金色の星を着けさせられ、列車に乗せられガス室に運ばれた。あれと全く同じ権力乱用だ」と、命を守る予防策と1000万人以上が虐殺されたホロコーストを同列にしてしまった。生放送で緊張して口が滑ったのかな? いや、後日「ユダヤ人も理性さえあれば同意見のはず」と、再度主張している。緊張の問題ではない。

MTGが所属する共和党の幹部は「ガス室」発言を批判したが、それは発言から数日後のこと。罰されもしなかった。実は彼女は党内で集金力も注目度もトップクラスで、党重鎮に負けないほどの全国的な支持率を誇る。まさに共和党の顔だ。しかし、風刺画では共和党の象徴である象の尻のほうに顔が付いている。おそらく、お尻(ass)は「バカ」を意味するからだろう。何? 物知り? More like象の尻! あっ、しつこいか。

MTGの失言や愚行は初めてではない。昨年の選挙中にも過去のSNSの投稿などから、白人至上主義団体への応援、民主党議員を暗殺することへの支持、銃乱射事件に関する虚偽の主張や反ユダヤ主義的陰謀論の流布などなど言語道断な発言がたくさん発覚した。それでも党内の予備選挙を勝ち抜き、本選挙で75%もの得票率で連邦議員に選ばれた。問題行為がむしろ人気の源となる「トランプ現象」は共和党で平常化しているようだ。MTG? More like OMG!(オー・マイ・ゴッド!)

ポイント

THE NEW FACE OF THE REPUBLICAN PARTY
共和党の新しい顔

金色の星
ナチスドイツが支配地域や強制収容所で人々の識別に用いたバッジのうち、ユダヤ人に着けさせたもの。ユダヤの象徴であるダビデの星の形で、黄色い星と呼ばれることも多い。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシア、340億ドルの対米投資・輸入合意へ 

ビジネス

アングル:国内製造に挑む米企業、価格の壁で早くも挫

ワールド

英サービスPMI、6月改定は52.8 昨年8月以来

ワールド

ユーロ圏サービスPMI、6月改定値は50.5 需要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story