コラム

感染拡大を助長する現代の「害まく人」トランプの大罪(パックン)

2020年10月23日(金)15時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Parable of the Superspreader / ©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<マタイによる福音書の「種をまく人の例え」で、群衆は心を開いて真摯にイエスの言葉を受け止めようとしたが、現代の米国民もまたトランプの言葉に耳も心も傾けている>

新約聖書のマタイによる福音書に、イエス様が群衆に伝えた「種をまく人(sower)の例え」が載っている。まかれた種の運命はさまざまだ。石の上に落ちた種、鳥に食われた種、雑草に抑えられた種は実らないが、良い土に落ちた種は百倍もの実りを生むとさ。......だから何って? 後で教えよう。

風刺画のとおり、トランプ大統領がまいているのはウイルス。残念ながらこれは例えではなく、実害の「実り」を伴う実話だ。9月26日にホワイトハウスで開かれた最高裁判事の指名式典の参加者11人が新型コロナウイルスに感染。その後の2次、3次感染を含めると、少なくとも関係者34人が新型コロナに感染した。

米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長はこれを爆発的に感染が広がるスーパースプレッダー・イベントだと指摘。式典後の1週間、選挙活動などで大統領と密に接したのは少なくとも120人。集会などのイベント参加者は6000人に上る。ミネソタ州の集会参加者だけでも、19人がコロナ陽性になった。重症者もいる。

もちろん、トランプ本人も新型コロナに感染したが、既に選挙活動を再開しているし、支持者もまた密集して大声を出している。前からトランプ集会参加者の「熱気」はすごいけど、今や進んで「熱を出す気」にも見えるね。

しかし、感染の輪を広げたことがトランプの一番の罪ではない。彼は社会的距離を取らない。専門家の指導に従わない。科学者の見解を信じない。誤報を広げる。未認可の治療薬を薦める。各州に経済や学校の早期再開を半強制的に勧める。検査の中止を呼び掛ける。この間違った言動で直接行ってもいない場所でも感染拡大を助長したことのほうが大罪だろう。

しかも悪い「種」をまいているのはコロナ関連だけではない。種をまく人の例えは「いい土に落ちた種が実るのと同じように、心を開いて真摯に言葉を受け止める人にイエス様の教えが実る」という教訓だった。残念ながら、トランプの「メッセージ」にも多くの国民が耳も心も傾けている。

コロナ禍が収束した後も、人種差別、国家主義、国民間の不和、政府や専門家への猜疑心などがはびこるに違いない。トランプのまいた種に、参っタネ。

【ポイント】
200K+ COVID DEATHS
アメリカでの新型コロナウイルス感染症による死者数は20万人以上

<本誌2020年10月27日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

東エレク「組織的関与確認されず」 TSMC機密情報

ビジネス

中国、鉄鋼生産削減を推進へ 過剰能力問題受け

ワールド

ドイツ企業、対米関税交渉でEUに強硬姿勢要求=調査

ビジネス

日経平均は続伸、ハイテク株高で 一巡後は小動き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story