コラム

アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

2019年09月14日(土)15時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China’s Gung-Ho Spirit ? / (c)2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<労働組合をつくろうとするアメリカ人従業員の動きを阻止――「アメリカよりももっと資本主義」な中国人>

問:資本主義社会で資本家はどうやって労働者を搾取する?

答:主に2つの手段で搾取する。1つは労働者を長時間働かせる。もう1つは生産方法の改善で労働時間を短縮し、その結果生じた余った時間にさらに働かせて搾取する。資本家は労働者に「もっと働きもっと利潤をよこせ」と要求する。

「社会主義国」に生まれた中国人は、中学校に入ると誰でもこのマルクス経済学理論の授業を受け、資本主義の罪悪と社会主義の優位性を勉強する。無一文から億万長者になった曹徳旺(ツァオ・トーワン)率いる「福耀集団」は16年、オハイオ州にある閉鎖されたゼネラル・モーターズ(GM)工場に投資し、自動車用ガラス工場として再生した。1500人を超す失業者は再び工場に戻ることができた。しかしその後、曹ら中国人管理者とアメリカ人従業員の間にもめ事が始まった。

「怠け者で仕事の効率も悪い」と、アメリカ人従業員に対する中国人管理者の評価は低い。アメリカ人も「中国人は効率ばかり追求して安全ルールを全く無視している」と不満がある。実際、仕事量が増えると作業環境は悪くなった。あるベテラン従業員はGM時代の15年間ずっと無事故だったのが、福耀集団で働き始めるとすぐ作業中にケガをした。

アメリカ人は労働組合をつくろうとしたが曹は拒否した。組合をつくると労働者の権利に配慮せねばならず、効率がますます悪くなる。投資したこの工場が儲からなければ何の意味もない。「組合が欲しいのか仕事が欲しいのか」。失業を恐れるアメリカ人の半数以上が結局、組合より仕事を選んだ。

このもめ事はニューヨーク・タイムズ紙や中国中央電視台(CCTV)など米中のメディアが報じ、ネットフリックスもドキュメンタリー映画『アメリカンファクトリー』を制作した。今年の夏休み、米中貿易戦争の最中にこの番組は中国でも放送された。中学からマルクス経済学を勉強した中国人はそれを見て、ネットでこんな投稿を書いた。

「社会主義の中国は資本主義のアメリカよりもっと資本主義だ! マルクスがもし生きていたら、ぜひこの映画を見るべきだ。なんと皮肉なことだろう」

【ポイント】
要工会还是要工作?

「組合が欲しいのか仕事が欲しいのか」

福耀集団
英語名はFuyao Glass Industry Group。1987年に中国福建省で創業。CEOの曹徳旺は貧しい農家に生まれ、たばこ売りの行商から身を起こしてガラス工場の経営者として成功。自動車用ガラスなどを作る同社を設立した。

<本誌2019年9月17日号掲載>

20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。


プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story