コラム

「ありがとう日本」中国人のワールドカップ反省会

2018年07月20日(金)14時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<必死の日本チームがアジアサッカーの尊厳を守ってくれた――中国人のそんな感動の裏には中国サッカーへの残念な気持ちが含まれている>

「ありがとう! 日本チーム」

いつもは反日の政府系タブロイド紙、環球時報にまで、サッカー・ワールドカップで活躍した日本をたたえる記事が転載された。「さすが日本!」「日本こそアジアの光!」「やっぱり日本が大好き!」──SNSにもこんな投稿があふれた。投稿者はもちろん中国人のネットユーザーたち。

決勝トーナメントで日本はベルギーに敗れたが、「日本隊値得尊敬(日本代表を尊敬すべき)」という言葉は、SNS新浪微博(シンランウェイボー)のトレンドトピックのトップ5に入った。

不思議なことだ。ついこの間まで誰かが「日本が好き」と言ったら、すぐに「中国人のくず、恥知らずの精日(精神的日本人)」と罵倒されたのに。なぜW杯が始まって以来、みんなが口をそろえて日本賛美を始めたのか。

「1万種類の戦術を持つチームなど怖くない。1種類の戦術を1万回練習したチームこそが怖い」と、中国メディアは語った。日本のFIFAランキングは61位、相手は3位のベルギーだ。1種類の戦術を1万回練習したチームは日本よりほかにないことを、日本・ベルギー戦で中国人たちは知った。体力と身長は欧米に負けても、精神と根性は誰よりも強かった。必死の日本チームこそアジアサッカーの尊厳を守ってくれた。

その感動の裏には、中国人の残念な気持ちが含まれている。同じアジア人なのに、なぜ中国のサッカーは駄目なのか。中国人はサッカーを愛していないのか。

「そのとおりだ。中国人は本当はサッカーを深く愛していなかった。愛は魂の中から生まれるから」。ある中国人サッカーファンの父親は、アルゼンチンが負けたのを見て大泣きしたメッシファンの娘にこう言った。表面のカッコいい部分だけ好きになっても駄目だ。誰も拍手してくれないところで、1つの戦術を1万回根気強く練習することこそサッカーへの真の愛。いつか中国人がこの真の愛を持てば中国サッカーも強くなる。

「中国サッカーが日本みたいになれるのなら、私たちも日本人サッカーファンみたいに喜んで競技場へごみを拾いに行くわよ!」。微博で中国人サッカーファンはこう投稿した。「でも、今の中国サッカーはごみそのものだからさ!」

【ポイント】
精神的日本人

精神的に自分たちを日本人と同一視する中国人。中国を軽蔑し、日本軍のコスプレなど中国人の嫌がることをする

可燃垃圾/钓鱼岛是中国的/打倒小日本/干死日本
それぞれ「可燃ごみ」「釣魚島(尖閣諸島)は中国のものだ」「日本野郎を打倒せよ」「日本死ね」

<本誌2018年7月24日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イケア、米国内の工場から調達拡大へ 関税で輸入コス

ビジネス

金融政策で金利差縮めていってもらいたい=円安巡り小

ビジネス

アングル:欧米小売、インフレ下でも有名人起用や価格

ビジネス

日経平均は4日ぶり反落、一時800円超安 利益確定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story