コラム

自宅に届いた、マイナンバー「カード交付申請のご案内」を熟読する

2015年12月03日(木)16時10分

マイナンバー通知カードの配送は当初の予定より遅れている AndreyPopov-REUTERS

 マイナンバーの通知カードの配送が遅れている。当初、日本郵便は10月末から1カ月程度で5700万世帯に配る予定としていたが、653万通が12月にずれ込むことになった。先週末の時点で最も遅れるのが、「千葉県四街道市の『12月20日』」(11月27日・朝日新聞)としていたが、高市早苗総務大臣は、月が改まった12月1日、「今月中に転居するなど住所が変わった場合は別枠と考えてもらいたい」(TBS News-i)と語っており、ここにきて、今年中の配送は難しくなる可能性も含め、いくつかの特例をほのめかし始めた。

 11月の時点で高市大臣は「配達が12月下旬までかかると、税に活用するために企業が従業員から番号を集める作業も厳しくなる」(11月13日・産経ニュース)とも語っていたが、予想以上に配送が難航していることが分かる。配送が完了していないにもかかわらず、運用をスタートするならば、「国民全員に等しく与えられる番号」というテーゼを、自ら崩すことになる。

「マイナンバー」とはそもそも不可思議なネーミングで、これは「ナショナルナンバー」とでも呼ぶのが正確だろう。国家が個人を管理するための番号が張り巡らされれば、こちらからの書類申請などがしやすくなるのは当然のこと。しかし、その程度の利便性を上回る利便を国家が得る仕組みであるという基本はおさえたい。9月3日に内閣府が発表した調査結果(全国3000人対象)で、懸念を持つ点として「個人情報の不正利用(38.0%)」、「個人情報の漏洩(34.5%)」との回答が出ているが、そもそも「個人情報の利用」と「個人情報の確保」を進める施策について、個人がまったく拒否できない状況に懸念を持つべきではないか。

 我が家にも通知カードの一式が送られてきたが、その中に「マイナンバー(個人番号)のお知らせ 個人番号カード交付申請のご案内」というパンフレットが入っていた。便利になるのか、それともやっぱり危ないのか、情報が錯綜していていまいち理解できていない人に向けた解説書の役割を果たすパンフレットだが、不都合な部分はさらりと流されている印象を持った。いくつか拾っておきたい。

 安保法案の議論が盛んだった9月初旬、「改正マイナンバー法」が成立している。施行される直前にちゃっかり利用範囲を拡大するという異例の展開なのだが、この改正により2020年までの導入が検討されていた「生体認証の導入」が前倒しで決まり、ICチップに記録される写真で顔認証ができるようになった。パンフレットには、カードに顔写真が記載されていることについて「顔写真付のため悪用は困難」と安全性を高めるアイテムかのように記載されているが、悪用されないから安心ではなく、その顔写真がどのように使われるのか、説明を尽くすべきではないか。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物急落、サウジが増産示唆 米WTI21年3月

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米GDPは3年ぶりのマイナ

ビジネス

FRB年内利下げ幅予想は1%、5月据え置きは変わら

ワールド

EU、米国の対ロシア政策転換に備え「プランB」を準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story