コラム

「今日が投票日であればトランプ勝利」、ヤバすぎる訴訟スキャンダルにもトランプが無傷の訳

2024年05月23日(木)12時30分
ストーミー・ダニエルズ

ニューヨークの裁判所を出るストーミー・ダニエルズ(5月9日)MICHAEL M. SANTIAGO/GETTY IMAGES

<トランプ側近の暴露が続いても支持者が全く離れないのはなぜか。次期大統領の座に最も近い男のドラマのような裁判を一挙解説>

米大統領選はトランプ前大統領がリードを保っている。最近の世論調査でも、もしも今日が投票日だったと仮定するとトランプ有利との結果が出ている。だがアメリカは今、トランプ裁判の話題で持ち切りだ。

信頼していた側近の暴露や不利な証言など、トランプの苦難が連日報道されている。まだバイデン大統領との対決に致命的ダメージを与えるものではないが、不吉な影を落としているのは確かだろう。

目下の注目は、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズへの口止め料をめぐるビジネス記録改ざん問題だが、ほかにも重要な裁判が3つある。


 

1) 大統領時代の機密文書をフロリダ州の邸宅マールアラーゴで不正に保管していたとして、連邦政府に起訴されている。この裁判が大統領選当日までに大きく動く可能性は低い。トランプ支持者は、バイデンやペンス前副大統領を含む他の正副大統領経験者も文書の管理がずさんだったのだから、問題ないと主張している。

だがトランプの場合、それを故意に隠蔽したという当局の告発に対処しなくてはならない。初公判は無期限に延期されたため、トランプがいつ法廷に立つかはまだ分からない。

2) 2020年大統領選で敗北したジョージア州の結果を覆そうとしたとして、他の18人の被告と共に州法違反で起訴されている。トランプは州務長官との電話で、同州での勝利のために必要な票を「見つけろ」と言ったとされる。裁判の日程は未定だが、トランプにとって気がかりなのは、他の被告の一部が司法取引に応じたことだ。

3) 21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件に絡み、4件の罪状で起訴されている。この裁判は無党派層に最も大きな影響を与えそうだ。裁判は3月5日のスーパーチューズデー前に始まるはずだったが、トランプが大統領免責特権を主張したため、最高裁が審理を行っている。6月末までには判断が出そうだ。

トランプが裁判騒動に無傷な訳

世論調査におけるトランプの強さは驚異的だ。下院で2度弾劾訴追された唯一の大統領として歴史に名を刻んでいるが、今では初の刑事訴追された(それも異なる4つの訴因で)大統領となった。

4月半ば以降、トランプの選挙運動がほぼストップしているのは、不倫関係にあったとされるダニエルズへの口止め料支払いに関連する裁判で自分自身を弁護しなければならないからだった。

裁判に出廷した元側近からは、トランプ本人が支払いを「実行した」という証言が飛び出している。ただし、たとえ裁判で負けても実刑になる可能性は低い。通常、ビジネス記録改ざんの最高刑は禁錮4年。だが初犯、特に暴力犯罪ではない場合は刑務所に収容されるケースはほとんどない。

世論の反応という点では、下品な振る舞いの暴露も出廷した本人の疲労をにじませた不安定な姿も、あるいは妻や家族が副大統領候補希望の政治家たちほどトランプ擁護に熱心ではないように見えることも、影響は全くない。実際、無党派層の多くは既得権益側によるトランプたたきと見なす可能性もある。

トランプは強運の男だ。現在進行中の裁判は最も負ける可能性が低い案件のみ。アメリカ人はおなじみのトランプ流ドラマ以上のものはないと判断するかもしれない。トランプが不道徳で衝動的で下品な人間であることを、有権者は既に知っている。

この裁判でどんなに不利な証拠が出てきても、大統領候補としてのトランプの評価が大きく変わることはまずない。トランプは依然として運を味方に付けている。心の中には自己破壊的な感情の激発を抱えたままだが。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story