コラム

中国に行くはずだったエマニュエルが駐日大使になった理由

2021年12月18日(土)17時00分

ランボーの異名を持つエマニュエル LORENZO BEVILAQUAーABC/GETTY IMAGES,

<4カ月前に指名されながらやっと米上院で認められた新大使。当初のバイデンは彼を中国に送りたがっていたのだが......>

アメリカの各国駐在大使を格付けすれば、中国と日本の大使が1位と2位だろう。

今年8月に、ラーム・エマニュエル前シカゴ市長が駐日大使に、ニコラス・バーンズ元国務次官が駐中国大使に指名されたことは、2つのポストが今後の国際政治にとっていかに重要かを裏付けるものだ。

バイデン米大統領の人選はまさに絶妙だった。人選の舞台裏を知る人物によれば、バイデンは当初、エマニュエルを北京に、バーンズを東京に送りたがっていたという。

確かに気性の激しい政界の大物を駐中国大使に据えることは、中国に対抗するアメリカの本気度と強い姿勢を伝えるという意味では合理的だ。だが、今年3月にアラスカで行われた外交トップ同士の会談が激しい非難の応酬に終わったのを受けて、バイデンはアメリカで最も有能な職業外交官という声もあるバーンズを起用することにした。

国務省報道官、駐ギリシャ大使、NATO大使、国務省ナンバー3の国務次官と、バーンズは文句の付けようがないキャリアを積んできた。外交官の道を志したのは17歳のとき。ベトナム戦争の失敗に強い衝撃を受け、軍事力の行使を回避するために外交の分野で働きたいと考えたからだ。

学生時代から世界の情勢に通じた「万能選手」を目指し、国務省入省後の若手時代には中東や西アフリカに赴任した。国務省で旧ソ連担当責任者を務めた経験は、バーンズの対中姿勢を占う重要なヒントになる。

基本的には中国側と友好的に仕事をするだろうが、権威主義体制の「輸出」を含む中国の戦略的主張には猛反対するはずだ。冷戦時代の経験を生かし、気候変動や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応などでは前向きに協力を模索する一方、クアッド(日米豪印戦略対話)を通じて中国を牽制するだろう。

一方、短気でけんか早いエマニュエルの駐日大使起用は意外感もあるが、政治家としてのキャリアを考えれば資格は十分にある。大統領首席補佐官、下院議員(ユダヤ人初の下院議長の有力候補だった)、そしてアメリカ第2の都市シカゴの市長を2期という経歴は、副大統領経験者や元大統領の娘といった「大物」が務めてきたポストにふさわしい。

ただし注目すべきなのは過去の肩書ではなく、この人物の個性だ。エマニュエルは10代の頃、レストランで働いているときに指を切ってしまった。だが、病院に行く代わりにミシガン湖で泳ぎ、ひどい感染症になって危うく命を落としかけた。このときは40度以上の高熱を出しながらも何とか生き延びたが、指の一部を失ってしまった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story