コラム

醜悪な討論会の「勝者」は誰か、トランプ感染は大統領選をどう変えるか

2020年10月05日(月)16時00分

9月29日に行われたトランプ(左)とバイデンの第1回のテレビ討論会は見るに堪えない醜悪な内容に KEVIN DIETSCH-UPI-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<不謹慎で下品な発言に終始したトランプと、現職大統領をひたすら罵倒するバイデン。第1回大統領選討論会での泥仕合は「史上最悪」と評されたが、再度の崩壊は避けられる可能性も>

私は生まれたばかりの娘を腕に抱いて大統領選討論会を見た。わが娘のアメリカ市民としての最初の時間が下劣な見せ物に汚されないように、彼女の耳を覆った状態で──。

ドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領の討論はひどく有害かつ無益なものだった。私は、自分が娘に対するある種の虐待に加担しているのではないかと心配になったほどだ。

バイデンは亡き息子の米軍入隊を称賛し、息子は決して「負け犬」ではなかったと主張することで、米軍を熱烈に擁護しようとした(報道によれば、トランプは米軍兵士を「まぬけ」「負け犬」呼ばわりしたらしい)。

これに対し、現職の米大統領はバイデンの発言にかぶせる形で、存命中の別の息子を麻薬中毒者と呼んで中傷した。

さらに討論会の序盤、トランプは新型コロナウイルスの感染を警戒する77歳のバイデンに対し、特大マスクを着け、他の人々から「200フィート(約60メートル)」離れて立つと言って嘲笑した。トランプの底意地の悪さに加え、ひどい無能さを浮き彫りにした瞬間だった。48時間後、自分とメラニア夫人に新型コロナウイルスの陽性反応が出たとツイッターで明かしたときと同じように。

トランプのウイルス感染が明らかになった今、アメリカは1981年のロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件以来、最も深刻な大統領の健康問題に起因する国家安全保障上の混乱に直面しようとしている。トランプの肥満度と74歳という年齢から、感染で死亡する可能性は11%以上あると示唆する研究もある。

ほんの数年前、アメリカは感染症の流行に最も強い国と思われていた。それが今、新型コロナウイルスへの対処で最悪の結果を招いただけでなく、現職大統領がコロナウイルスの脅威を真剣に受け止める別の政治家を公然と嘲笑した揚げ句、わずか数日後に自身がウイルスに感染したのだ。

アメリカの衰退をここまで的確に象徴する物語を思い付くことは、小説でも無理だろう。第1回の大統領選討論会は「史上最悪」と評され、多くの政治関係者はこれ以上の国家的恥辱を回避するため、残る2回の討論会の中止を公然と働き掛けている。

中国を利する展開に

トランプのコロナウイルス感染は、この惨憺たる討論会にふさわしい余波的エピソードだった。それ以外に語るべきことがあるとすれば、次のとおりだ。

まず、勝ったのは誰か。明白な勝者は中国だ。90分間の討論会はほぼ口げんかの応酬に終始した。暴走したトランプは、両方の陣営が合意したルールを全く守らなかった。ほぼ全ての場面でバイデンの発言をさえぎり、大声で自分の主張をかぶせた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ワールド

中国、来年は積極的なマクロ政策推進 習氏表明 25

ワールド

ロ、大統領公邸「攻撃」の映像公開 ウクライナのねつ

ビジネス

中国、来年は積極的なマクロ政策推進 習氏表明 25
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story