コラム

強烈な被害者意識と自尊心 ゴーンが見せていた危うい兆候

2018年12月03日(月)18時00分

工場閉鎖や人員削減の計画を打ち出したゴーン(99年) REUTERS

<後に問題が発覚する経営者を見抜く方法はないのか。ゴーンは権力を独り占めし、次世代のリーダーを育てなかった>

「超大物」「巨人」「レジェンド」──日産自動車のカルロス・ゴーン前会長は、そんな形容がぴったりの人物だった。1999年以来、日産の経営を指揮して業績のV字回復を成し遂げ、今では、日産、仏ルノー、三菱自動車の「3社連合」を束ねる存在になっていた。

そのカリスマ経営者が11月19日、有価証券報告書に自らの役員報酬を過少に記載した疑いで逮捕された。突然のニュースに多くの人は衝撃を受けた。

フォーチュン・グローバル500に名を連ねる2つの企業のトップを同時に務めた史上初の経営者で、半生が漫画にまでなった人物が、どうして不名誉な容疑を掛けられるに至ったのか。なぜ、世界を股に掛けていた男が自らの報酬額を偽らなくてはならなかったのか。

メディアや評論家が関心を示すのは、容疑を裏付ける証拠があるのかという点と、3社連合への影響力をめぐり日仏の関係がどうなるのかという点だろう。

ここでは、少し違う角度からこのニュースを考えてみたい。ドナルド・トランプ米大統領の問題点が相次いで明らかになったのは、2016年の大統領選で「トランプは絶対駄目だ」と主張していた人たちの予言どおりだった。同じように、ビジネス界で後に問題が発覚する経営者を見抜く方法はないのか。現時点でゴーンが法を犯したとは断定できないが、これまでの言動の中に危うい兆候が既に見えていたのかもしれない。

ゴーンは、周りは敵ばかりだという危険な発想に陥っていたように見える。その種の思考をするようになると、怒りの感情に突き動かされて会社を私物化することを正当化しがちになる。その上、会社の未来にとって重要な行動も取れなくなる。

偉大なリーダーの条件

ゴーンは2012年にコンサルティング大手マッキンゼーのインタビューに応じた際、こんなことを述べている。「99年に日本でやったことをいま実行できるとはとうてい思えない。当時、私はこう訴えた。『年功序列制を廃止する。工場を閉鎖し、人員削減を行う。系列を解体する』。ずいぶん批判も浴びた。それでも、『ゴーンを信じてみようじゃないか』と言う人もいた。いま私が同じことをしようとすれば、命がないだろう」

あまりに強い被害者意識と過剰な自尊心が透けて見える発言だ。同時に、この言葉はゴーンの経営者としての大きな過ちを予見させるものでもあった。その過ちとは、部下にリーダーシップの振るい方を教えず、後継者の育成を拒んだことだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story