コラム

株価急落でトランプが自信喪失、TPP復帰を急ぐ可能性も

2018年02月15日(木)16時00分

ニューヨーク証券取引所では2月5日、ダウが過去最大の下げ幅を記録 Brendan Mcdermid-REUTERS

<株高を自分の手柄のように吹聴してきたツケで、市場の調整により政策の軌道修正を迫られる>

大揺れに揺れる株式市場に生きた心地がしないのは投資家だけではなさそうだ。トランプ米大統領は今回の株価変動をきっかけに、通商政策の見直しを迫られるかもしれない。

トランプはつい最近まで空前の株高を自分の手柄のように吹聴していた。それは危うい賭けでもあった。変動する市場に自らの政治的な命運を託すことになるからだ。トランプと違って、歴代の大統領は政権の実績を示す「成績表」のように株価に言及する愚は犯さなかった。

自らの経済政策の正しさを株高が証明していると主張してきた以上、株価が急落すれば、「私の政策は間違いでした」と頭を下げるしかない。

ダウ平均が1日の下げ幅で過去最大を記録し、売りが売りを呼んで投資家がパニックになるなか、トランプも平静ではいられなかったはずだ。経済に疎く、「俺様自慢」が大好きで、動物的衝動に執着するトランプのこと。ここはあっさり宗旨替えして自由貿易派が喝采するような決定を下すかもしれない。市場の急激な調整に背中を押されTPP(環太平洋経済連携協定)への復帰に傾く可能性もある。

トランプは1月末、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での演説でTPP復帰を検討する考えを述べ、グローバリズム推進派の超エリートたちに歩み寄る姿勢をみせた。演説に先立つインタビューでは、TPPは「ひどい取引」だったが、「かなり良い取引にできるなら参加もありだ」と語った。

アメリカを除く11カ国は3月初めに新協定に署名することで合意しているが、一部参加国の高官はアメリカの復帰に引き続き望みをつないでいる。

世論は貿易振興を望む

ただ、トランプ政権はダボスでのトランプの発言とは矛盾する動きもみせている。1つはセーフガード(緊急輸入制限)措置の発動だ。太陽電池関連製品と家庭用洗濯機にそれぞれ最大で30%と50%の関税をかける方針を発表した。

さらに、駐韓米大使に事実上内定していたビクター・チャを指名リストから外したこと。チャによれば、米韓自由貿易協定の破棄をちらつかせて韓国政府に圧力をかけるトランプのやり方を批判したためだという。

他国との通商関係に関するトランプの発言を真に受けてしまうアメリカ人は少なくない。その証拠に共和党支持者の多くは今やNAFTA(北米自由貿易協定)はアメリカよりもメキシコを利する協定だと信じている。

ただし、TPPについてはアメリカの世論は揺れているようだ。16年の大統領選の直前に政治ニュースサイトのポリティコとハーバード大学が実施した世論調査では、調査対象者の7割がTPP関連のニュースを見聞きしたことがないと答え、見聞きした29%のうち、政権交代前に急いで批准すべきではないと答えた人が68%に上った。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story