コラム

アメリカで二大政党制が続くからくりと有権者心理

2017年10月21日(土)13時00分

ルーズベルトは新党を結成して異例の3期目を目指した Topical Press Agency/GETTY IMAGES

<第3政党の台頭を阻んでいる共和・民主両党だが、トランプの出現により政治革命が起こる可能性も>

今のアメリカの最大政党は「どれでもない党」だ。

無党派を自称する人は有権者の約40%。共和党と民主党の支持者はいずれも約30%だから、それを大幅に上回る巨大勢力だ。この30年ほどアメリカ人が既成政治にうんざりするなかで、無党派層は急拡大を遂げてきた。

背景にあるのは政治不信の高まりだけではない。共和党と民主党がイデオロギー的に保守とリベラルへ二極分化したことも大きな要因だ。

アメリカ政治学会は50年、政党はイデオロギー色をより鮮明に打ち出すべきだと提言した。当時の共和党と民主党は政策で重なる部分が多く、有権者が選択に迷う状況だったからだ。

その後、政治的な分極化が劇的に進み、今の状況は当時とは隔世の感がある。82年には下院の435人の議員のうち、ライバル政党とイデオロギー的に近い人は344人だったが、94年には252人に減少。02年には137人になり、現在ではなんと4人を数えるのみだ。

激化の一途をたどるイデオロギー的な対立は有権者を幻滅させた。議会では不毛な足の引っ張り合いが繰り広げられるばかりで、自分たちが望む政策は一向に実現しないからだ。

それでも、1852年の選挙以降、アメリカの大統領選では常に共和党と民主党の候補が1、2位を占めてきた。唯一の例外は1912年の大統領選。共和党の指名候補になれなかったセオドア・ルーズベルトが新党を結成して出馬し、民主党のウッドロー・ウィルソンには敗れたものの、共和党の指名候補ウィリアム・ハワード・タフトを抑えて堂々の2位となった。

選挙戦の常識が変わる

ではなぜ、アメリカでは2大政党の支配に第3政党が食い込めないのか。その答えは、共和党、民主党とも現状維持を望んでいること、そして選挙制度そのものにある。

フランスの政治学者であるモーリス・デュベルジェが提唱した「デュベルジェの法則」をご存じだろうか。この法則によると、アメリカの選挙制度(多数決による単純小選挙区制)では、2大政党制になりやすい。

小選挙区制が2大政党制を促進するのは、主に2つの要因が働くからだ。1つは心理的な要因。この制度では1選挙区で1人しか選出されないから、第3政党に投票し続けていると、有権者は自分の票が死に票になると気付く。そのため支持していない2つの有力政党のうち、ましだと思うほうの政党に投票するようになる。結果、第3政党は議席獲得の望みを断たれる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻

ビジネス

アップル、四半期業績が予想上回る 新型iPhone

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通し予想上回る 第3四
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story