コラム

トランプ政権誕生でワシントンへ「全てはこのための準備に過ぎなかったとさえ思う」

2019年11月23日(土)13時35分

また、被写体、とりわけ人物の被写体とブットウ自身を同調させて入り込むことにも重きを置いている。それにより、彼、彼女、彼らが何を経験しているかを映し出したいのだという。同時にそれは、自分自身の何かを映し出すことでもある、と本人は語っている。

こうした点は、ここ近年、ブットウがより強く感じ始めたことなのだろう。以前は、多くの写真家がしばしば撮影しがちな、悪く言えばクライアントやオーディエンスを意識し過ぎる罠にはまり、シンプルでeye candy的な写真(つまり、分かりやすくて見映えのいい写真)を撮っていた、とほのめかす。

ブットウは写真と人生に関し、科学者でありながら歴史、アート、写真に精通していた父親から大きな影響を受けている。写真のセンスを自然に磨いただけではない。その父親は60歳になる頃、やっと自分の仕事が分かるようになったと言っていたとのことだが、それを引き合いに出し、ブットウはこう語る。

「今ほどそれを実感することはない。......情熱、熱望、好奇心がある限り、自分の愛する何かを追い求め、新しいものを見つけることができる」

実のところ、トランプ政権誕生後、ブットウがワシントンに拠点を構えたのはそれゆえだ。いや、それ以上の宿命的な意味さえ持つかもしれない。

「自身のキャリアの多くの写真は、公的な政策との因果関係だった。だが、ワシントンで仕事をしたことはなかった。......トランプ政権が生まれた。非常に不可思議でアメリカの危機的な瞬間だ。......私は偶然にも、大学では国際政治学を専攻している。ワシントンに行くべきだと思った。今までの自分のキャリアの全ては、このための準備に過ぎなかったとさえ思う。無論、ワシントンには他にも優れた写真家がいる。だが私は長い目で考えている。未来の世代のために、いまワシントンで何が起こっているか、その全体像を把握していきたい」

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
David Butow @davidbutow

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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