コラム

このクジラの写真は、最大公約数的な海洋写真とは違う

2017年12月18日(月)11時53分

人間も、潜水中にスコヴラノヴァが出会い、彼女を魅惑する生き物の1つである。単に水中で戯れる姿を記録するだけではない。彼女は、人間と海との関わりを、もともと自然に存在するものとしてみなしている。哺乳類である人間は、規模こそ違っても、クジラやイルカと同じようにDiving Reflex (水中で生存するために、呼吸系統などの身体機能を調整すること)を無意識に行っている。そうした海との関係性を、また人間と他の海洋生物との共通性を、写真を通して表現したいのだという。

とはいえ、スコヴラノヴァの作品の魅力の核は、彼女が海と海の生物に対して持っている愛情と情熱だけではない。それだけでは、世界中に多くいる他の海洋写真家とそれほど変わらなかったかもしれない。あまり評価されることもなかったかもしれない。

彼女の作品は、明るく、輝きを放つような綺麗さを求める、最大公約数を重視した典型的な海洋写真ではない。むしろ反対に、多くの作品はローキー(low-key)な調子で統一され、ダークな匂いが漂っている。それも美の一種ではあるが、そこには、解放感と同時に恐怖の感覚が矛盾的に存在する。実は、この二律背反の耽美性こそが最大の魅力なのである。人は、彼女の作品を見れば見れるほど、その不思議な感覚の虜になってしまうのである。

スコヴラノヴァが、潜水して写真を撮り始めたのは2014年からだ。まだまだ潜水に対する恐怖があるが、それよりも海の魅力に惹き込まれるという。ちなみに彼女の潜水撮影は、フリーダイビングのスタイルで行っており、酸素ボンベは使用しないとのことである。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Michaela Skovranova @mishkusk

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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