コラム

コンセプトは反トランプ?「今のアメリカはアメリカ的ではない」

2017年06月29日(木)10時46分

だが、大統領トランプの出現とともに、とりわけ1月のトランプの就任式をトロッター自身が取材して以来、彼はインスタグラムの中で写真をシリアスに考えるようになっていった。いつのまにか、un-Americanのコンセプトも自然に含むようになっていった。

とはいえ、社会性のある写真というだけでは――とりわけ抗議運動の写真は――魅力的な写真にはならなかったかもしれない。いくら多くのアメリカ人やトロッター自身が、今のアメリカに怒りや不安を感じていたとしても。なぜなら、このトランプ時代、そうした写真はSNSなどで数えきれないほど発表されているからだ。

にもかかわらず、彼の写真は何かが違っていた。抗議運動の中で群衆を撮影しながらも、常にほぼ個人に焦点を当てている。フラッシュを調整しながら被写体を浮き出させ、力強さと親密さの2つの臨場感的要素をうまくかもし出しているのだ。

【参考記事】本音を出さない政治家の、本質をえぐるフラッシュ

もう1つ理由がある。20年前に彼が経験した悪夢に起因したものだ。彼はカリフォルニアでギャングを取材中、袋叩きにされ、九死に一生を得たが、トラウマと物理的な後遺症が残ってしまった。大勢の人や多くの物事を一度に知覚する能力が弱くなってしまったという。

そのためトロッターは、群衆を撮影しながらも、その中の個人に焦点を当てているのだという。いってみれば、写真家としての本能的な使命感と肉体的・精神的なセラピーを兼ねている。それが結果として、典型的な抗議運動であるはずの写真をどこか不可思議で魅力あるものにしているのかもしれない。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
John Trotter @unamericain

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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