コラム

NY音楽シーンの熱気を伝える、撮影者と被写体の信頼感

2015年09月07日(月)16時40分

 ルーマニア生まれ、ニューヨーク育ちのサーシャ・レッカ。本来の仕事は、フォトエディターだ。現在の職場であるローリンング・ストーン誌も含め、著名な雑誌で活躍してきた。しばしば優れた写真は、写真を本職としない者の手によって生まれるが、彼もそうした才能を持つ一人である。

@wimbstagram and @alienzarereal

Sacha Leccaさん(@sachalecca)が投稿した写真 -



 インスタグラムでの彼の写真スタイルは、ルポルタージュ、あるいはドキュメンタリーである。ニューヨークを中心に社会的、政治的なものまで含んださまざまなハプニング、あるいは日常を切り取っている。

 とりわけ、ライフワークとも言えるライブ・ミュージック・シーンのシリーズは、多大なヴォリュームを占め、彼の才能のみならず、人間性を読み取ることができる。ちなみに、ローリング・ストーン誌のアサイメント関連の写真もあるとはいえ、その大半は彼自身のプライベートな時間を割いて撮影したものだ。

 彼には、写真哲学において、大きなリマインダー(心に留めていること)がある。"Shooting Well"(ちゃんと写すこと!)である。 ファッション写真家であった(今もだ)彼の父が、サーシャに言い渡したことばだ。意味はもちろん、技術的なことではない。自分自身が目の前で起こっている世界の一部になり、その瞬間に同調するということだ。

 事実、サーシャが映し出すミュージック・シーンからは、ミュージシャン自身も含め、ライブに没頭する人々の汗、熱気、陶酔、あるいは緊張といったものが、生の匂いとなって伝わってくる。それがしばしば、写真そのものを超え、見る者をその瞬間、目の前で起こっている現実の世界そのものとして錯覚させてくれるのだ。

 ただ、そうしたエネルギッシュなタイプの写真は、ある意味ではオーソドックスなものだ。才能のある写真家なら必ずおさえようとし、実際、おさえるだろう。むしろ、彼の才能はその場の波長に見事にコネクトすることであり、その能力は動的なシーンよりも静的な場面においての方がより顕著に表れているかもしれない。

 バックステージで撮ったSurfbort というブルックリンのロックバンドのメンバーのポートレイト(上の写真)は、まさにその一つだろう。撮影する側の気負いはまったくない。また、若手のミュージシャンたちにはよくポーズをつくりすぎることがあるが、そうした中で、つい撮らされてしまった写真でもない。そうではなく、被写体と撮影者の間には自然で何か大きな信頼感が漂っている。それが限りなく心地良い感覚を与えているのである。そして、言うまでもなく、そうした世界を作っているのは、サーシャなのである。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Sacha Lecca @sachalecca

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コロンビア政府への軍事作戦は良い考え=トランプ氏

ワールド

スターマー英首相、短期政権交代は「国益に反する」と

ワールド

ミャンマー総選挙、第1回は国軍系USDPがリード 

ワールド

ウクライナ、年初から連日モスクワ攻撃とロ国防省 首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story