コラム

中国経済、波乱の1年の終わりに

2015年12月28日(月)16時15分

 中国政府は資産価格上昇をテコとした消費主導の景気回復を狙い株価を上げようとしたら相場が過熱し、それを抑制しようとしたら今度は株価が暴落、相場を下支えようとしてもそれが効かなかった、という具合に、政策対応の稚拙さが露呈しました。こうしたなかで、株価対策のみならず「これまでの景気下支え策さえも効かないのではないか」、さらには、「中国政府はマクロ経済へのコントロール能力を失っているのではないか」との懸念が高まり、中国経済に対する疑心暗鬼が増長されることになったのです。

 今後、中国の政策対応が早急に洗練されていくとは考え難く、折に触れて「中国ショック」が特にマーケットの波乱要因になるリスクは残り続けるとみています。しかし、同時にそれが単なる思惑や疑心暗鬼ではなく、本当に中国経済の変調(失速)を意味しているのか否かを冷静に吟味する必要性も高まっているのではないでしょうか。結論を先に言いますと、少なくとも現状ではマクロ経済に対する中国政府のコントロール機能は失われていません。

下支え策の奏功で景気下げ止まりの兆しも

「ニューノーマル」を掲げる中国政府にとって、成長率低下は想定内のはずですが、成長率が下げ止まらず、政府目標の達成ができなくなっていることには危機感を持っています。2014年は政府目標「7.5%前後」に対して実績は7.3%、2015年は同様に「7.0%前後」に対して1月~9月期は6.9%です。このため、2015年春以降は、1)二重ローン(2軒目の住宅購入に対する住宅ローンの条件を緩和)や不動産の短期売買の容認など投機を助長しかねない住宅市場テコ入れ策の発動、2)2015年に返済期限を迎える地方政府関連債務を中心に3.2兆元分を中長期・低金利の地方債に置き換える、など中国経済が抱える問題を先送りにしてでも景気を下げ止めようとする政策が打ち出されました。

 政策はある程度奏功しています。特に、住宅販売金額は、2014年は前年比7.8%減、2015年1月~2月は前年同期比16.7%減と不振でしたが、その後は大きく回復し、1月~11月は同18.0%増となりました。10月の全国70都市新築住宅価格は同0.1%上昇と、14ヵ月ぶりにプラスに転じ、11月は同0.9%上昇となりました。住宅はよく売れるようになっているのです。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

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