コラム

「HELLO, OUR STADIUM」新国立競技場の妙な英語──これで東京五輪を迎えるの?

2019年12月26日(木)11時15分

12月15日に報道陣に公開された新国立競技場(東京) Issei Kato-REUTERS

<12月15日、五輪の主会場となる新国立競技場が報道陣に公開されると、私は驚き、息をのんだ。あまりに英語の問題が多く見受けられたからだ>

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、日本は世界のアスリートとスポーツファンを迎えます。その時、いかに上手く言語対応をできるかがポイントとなるでしょう。

しかし、12月15日に東京五輪の主会場となる新国立競技場が報道陣に公開されると、私はがっかりしました。英語の問題が多いということが分かったからです。

私はその場にいませんでしたが、数人のジャーナリストが現場から撮影し、ツイートしてくれたので、中の様子を見ることができました。ここで新国立競技場の「妙な英語」を紹介して、なぜそれが問題なのか、代わりにどう訳せばいいのかについて解説したいと思います。

建造物に挨拶することは可能か?

●HELLO, OUR STADIUM

私が最初に目にしたのは、五輪の本番で観客が新国立競技場に入るとき、最初に目にするであろう案内ディスプレイでした。それはファイナンシャル・タイムズの東京特派員が公開ツアーの最初の瞬間に見つけたものです。ディスプレイに表示された「HELLO, OUR STADIUM」を面白く感じた特派員が、その写真をツイートしたのです。

私はそれを見て、英語の不自然さに驚き、思わず息をのみました。最初に感じたのは、Welcome to our new stadiumとすればよかったのに、ということでした。

しかし、複数のフォロワーから、HELLO, OUR STADIUMは新国立競技場のオープニングイベントの名称で、実は競技場に来る人に挨拶するのではなく、観客目線でスタジアムに対して挨拶することが狙いなのだという指摘がありました。

建造物に挨拶するというのは私にとって想定外でしたが、確かに、ものを擬人格化するのは日本文化の特徴です。ネットフリックスの番組で、近藤麻理恵(こんまり)が訪問する家に対して挨拶しているのも、その文化の現れだと言えます。

とはいえ、もし新しいスタジアムに挨拶することを言いたいのだとしても、HELLO, OUR STADIUMという言い方はお勧めできません。「こんにちは、我々のスタジアム」というような感じで、自然な言い方ではないのです。Hello new stadium!のほうがまだ自然だと思います。

なお、@Teoidiomasさんが提案してくれたSay Hello to Our New Stadium.はとても良いと思います。スタジアムを訪れる人を対象にした言い方で、一緒にスタジアムに挨拶しようという呼び掛けのニュアンスになるので、自然で良い表現だと言えます。

HELLO, OUR STADIUMは日本人にとって理解しやすい英語のようですが、観客の中には外国人も多く含まれるので、皆にとって好感の持てる英語にすることを大切にしたほうがいいと思います。キャッチコピーを作るときには、そういった意識をぜひ持っていただきたいのが正直なところです。

プロフィール

ロッシェル・カップ

Rochelle Kopp 北九州市立大学英米学科グローバルビジネスプログラム教授。日本の多国籍企業の海外進出や海外企業の日本拠点をサポートするジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の創立者兼社長。イェ−ル大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営大学院修了(MBA)。『英語の品格』(共著)、『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』(共著)など著書多数。最新刊は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story