コラム

戦後80年に必要な3つのメッセージを考える

2025年07月30日(水)15時30分

3つ目は謝罪外交の見直しです。日本の保守派は、謝罪外交を嫌います。理由としては、謝罪外交を続けると相手はどんどん居丈高となって、日本への要求を無限にエスカレートするからだということのようです。このロジックに加えて、戦後80年という長い時間が経過している中では、若い世代が「生まれながらに謝罪を強要されることへの違和感」を持つ、その自然な感情論に訴えるのが効果的ということもありそうです。

ですが、こうした思考には難点があります。それは、そのような「謝罪外交批判」というのは、例えば日韓離反策であるとか、日中離反策といった悪意のある外交に簡単に利用されてしまうからです。ということは、日本の名誉を守ろうとしているのに、リアリズムの世界では日本の安全を保障しない結果となるわけで見過ごせません。


ここは発想の転換をしてはどうでしょう。例えばですが、21カ条要求に始まり南京入城を経てポツダム宣言受諾による武装解除に至る日本の対中国政策、その後の対韓政策を考えずに日露戦争を戦った以降の対韓政策の全体について、「謝罪」をするのではなく「批判」をするのです。

これまでは政府の姿勢として「公式には謝罪」をして、「批判をするのは学者などが個々に行う」というスタイルが続いていました。それが「謝罪批判」を生み、それが離反策に利用されてしまうのであれば、発想を変えてみるのです。つまり、謝罪という主観的なものは「個々人の良心に任せる」として、その代わりに政府などが公式の立場で発するのは「批判」に変えるのです。

不毛な謝罪外交議論と決別するために

戦後間もない時期、それこそ戦争に加担した人の多くが存命であった時代には「一億総ざんげ」などといって、「一斉に謝罪をする」のが自然だったのだと思います。また、高度成長やバブル経済に浮かれて社会に過剰な自己肯定感が満ちていた時代には、謝罪をすることが倫理的な高揚感につながったのかもしれません。

ですが、今は時代が全く違います。世代的に謝罪の主体となることに実感のない層、様々な理由で謝罪を強要されることを不快に思う層が増えているのは事実だと思います。そんな中で謝罪外交を続けることは、国内の賛否両論を拡大して、離反工作や日本の孤立化工作を利する結果になってしまいます。

この戦後80年において、謝罪は各人の良心にまかせ、また世代による濃淡は無理に直さない、その代わりに国としての公式のメッセージは戦前の無謀な軍国主義への批判に転じることにするのです。近隣諸国との関係でいえば、日本の国家としての姿勢が謝罪から、戦争の歴史への批判に転じたとして、そこに「危険の増大」を見出すことはないと思います。

むしろ無理に謝罪を続けて、その結果として賛否両論のノイズを伴って発信がされるよりは、国際社会からも遥かに信頼を得ることができるのではないでしょうか。そのような形で、不毛な謝罪外交論議を終わらせることができれば、意義は大きいと考えます。

【関連記事】
アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないのか?
参院選が引き起こした3つの重たい事実

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、金正恩氏が決断すれば短期間に核実験実施の可

ビジネス

トヨタ、通期業績予想を上方修正 純利益は市場予想下

ビジネス

訂正マネタリーベース、国債買入減額で18年ぶり減少

ビジネス

テスラ、10月の英販売台数が前年比半減 欧州諸国で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story