コラム

戦後80年に必要な3つのメッセージを考える

2025年07月30日(水)15時30分

戦後80年に向けて石破首相がメッセージを発出するかどうか、注目が集まっている Franck Robichon/POOL/REUTERS

<謝罪外交議論で、近隣諸国との関係を悪化させないためには......>

8月15日はポツダム宣言受諾から80年、大きな歴史の区切りとなります。この戦後80年にあたって、国際社会に向けて国として何らかのメッセージを出すことは必要と思います。方法としては首相が何か言うというスタイルが考えられますが、現在の状況では党内外からの批判を伴うことが予想されます。国際社会に対して、そうした雑音も一緒に報道されてしまうのでは効果は半減します。

ですから、8月には国会が開会することもあるので、両院が全会一致で決議をしたうえで、両院議長名で出すなどの工夫ができれば良いと思います。どうしてメッセージ発出が必要かというと、3つの差し迫った問題があるからです。


1つ目は、戦後の国際秩序が揺らいでいるという問題です。第2次大戦において日本は、1945年5月のドイツ降伏以降は、事実上は枢軸国を代表して一国での戦いを続けました。戦争継続は国益を大きく毀損しましたが、それはともかく歴史上、日本の敗戦が第二次大戦の終結となったのです。

第2次大戦の終結というのは、日本の降伏だけでは完成しませんでした。引き続いて連合国という戦争のための同盟が国際連合(英語名は同じ United Nations)という平和維持のための恒久組織に改組されました。この国連創設に伴って、サンフランシスコ講和条約により日本の独立が回復され、また日米安保条約による日本の安全保障が確立する代わりに、日本の軍国主義復活の可能性が封じられたのでした。

国連を主体とした戦後秩序は揺らいでいる

つまり、日本の降伏と再独立、国連創設、日本の軍国主義の否定というのは、3点セットとなって戦後の国際社会において、「二度と世界大戦を起こさない」体制の基盤となったのです。ところが残念ながら、このような戦後秩序は揺らいでいます。他でもない複数の安保理常任理事国による国連軽視、国連憲章を無視した軍事行動が横行しているからです。そのような中で、戦後80年の平和を確認し、戦後秩序に関する原点回帰を訴えることは意義があると考えられます。

2つ目は、日本にとって喫緊の課題として、アメリカの強い要請により軍事費を増額するという問題があります。負担に公平を求めるとか、受益者負担としたいという主張がアメリカ国内で説得力を持ってしまうのは否定できない事実です。一方で、日本としては長年のアメリカの関係において、応分の負担はしてきたという認識がありますから、負担増に関しては決して積極的に応じるわけではありません。

そうではあるのですが、これまでアメリカが負担してきた費用ないし装備の一部を、日本が負担するということは、あくまで金銭面のことですが日本による自主防衛の比率が高まるということになります。そうすると、例えば周辺国の政府がより国民の感情論に訴えるなかで、「日本は軍拡に走っている」とか「日本軍国主義の復活だ」などというプロパガンダに利用される危険は否定できません。

仮にそうした動きが大きくなれば、最悪の場合は日本が軍拡競争に巻き込まれてしまうかもしれません。これを防止するためには、「日本の軍事費増額はあくまで日米における負担比率の組み替え」であり、「抑止力としては全く不変」だから「軍拡では全くない」ということを主張することは必要です。このことを強く訴えるのには、戦後80年というのは効果的なタイミングになると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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