コラム

迷惑系外国人インフルエンサー、その根底にある見過ごせない人種差別

2025年04月23日(水)15時15分

私はこうした視線の背景にあるのは人種差別だと思います。この迷惑系動画にも、また注意喚起動画の一部にもそれは感じられます。全体の1割ぐらいは「リアクションしてくれると友達になれるのに......」的な「関係性を求めるアプローチ」も入っていると思います。仮にそうだとしても、残りの9割は「なぜ冷たく無視するの?」「アンタたちは誰?」「仮面を被っているの?」「ハッキリ言って不気味なんだけど」といった差別感情があると思います。

あるいは差別とまでもはいかなくても「自分たちとは何かが決定的に違う」という困惑や孤立、要するに「つながれない感」があるのは明らかです。迷惑行為によって不快感を感じたり、実際に読書や音楽に没入するのを邪魔されたり、というのも問題だと思います。ですが、それと同時にこのような差別感情を拡散させるというのは、もっと問題だと思います。

こうした現象は文化摩擦と言ってしまえばそれまでですが、やはり不愉快であることに変わりはありません。やめさせたほうが良いと思います。その場合、現在検討されているような「電車の中で英語で注意喚起のアナウンスをする」ようなアプローチはあまり勧められません。先ほどの小学生のたとえで言えば、頭の固いだけの「学級委員」が登場しても、悪ガキの迷惑行為はエスカレートするだけだからです。


異文化を見下す視線

たぶん、一発でやめさせることはできるのだと思います。それは、周囲が何らかのリアクションをすることです。英語が得意な人がいたら、「日本では公共空間は静かな環境にしておくのが文化的な知恵なんだよ。協力してくれると嬉しいな」的なことを一言言えば、行為は収まるのだと思います。

そんな面倒なことをしなくても、何らかの表情なり視線として「バカバカしいから止めなよ」という反応をすれば効果はあると思います。先ほどのたとえで言えば、無表情を貫いていた優等生が、不意打ちを食らわせるように、悪ガキに微笑みを返したら、そこで緊張感は雲散霧消し、悪ガキはバカバカしくなって退散するでしょう。それと同じです。

冷静に言えば、その程度のイタズラであり、目くじら立てるほどのことはないという考え方も成り立ちます。ですが、迷惑系動画も、それに注意を喚起するような仕立ての切り取り動画も、明らかに「周囲の日本人の無表情」をメインに据えているのは事実です。そこにあるのは、ディスコミュニケーションへの不満感かもしれませんが、その奥には異文化への見下げた視線があるわけで、これは見過ごすわけにはいきません。

【関連動画】
トランプ関税が抱える2つの謎......目的もターゲットも不明確
博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日本社会の側にある

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story