コラム

トランプ関税が抱える2つの謎......目的もターゲットも不明確

2025年04月09日(水)14時40分

大統領専用機の機内で記者団の取材に応じるトランプ Kent Nishimura-REUTERS

<米世論も市場も、支持層向けの「ドラマ演出」であることは分かっている>

今回の「トランプ関税」ですが、4月2日水曜に発表されて以来、株式市場は激しい混乱状態に陥っています。例えばニューヨーク市場の場合、3~4日にかけては暴落し、週明けの7~8日にかけては乱高下を繰り返しています。まるで、リーマンショック前夜のようだという声すら聞かれるようになっています。

今回の「相互関税」ですが、大前提として、アメリカが先進国社会になったということがあります。つまり、知的な頭脳労働だけが残って、その川下にある製造プロセスは空洞化させてきたのです。その結果、中西部には工場の廃虚ばかりが目立つようになり「ラストベルト」と呼ばれるようになりました。

こうした地域の人々は多国籍企業を憎悪の対象としますし、アメリカをそのような「先進国」にした政治家や経営者を「グローバリスト」として軽蔑しています。更に言えば、国際分業を前提としたサプライチェーンも敵視していますし、アメリカに対して膨大な輸出をしている中国などを不公正な国として、これまた憎悪の対象としています。


狙いはどこにあるのか

では、仮に製造業回帰に成功したとして、彼らの多くは工場労働を希望するのかというと、それはあまり期待できないと思います。トランプ政権としては、製造業を復活させるのが目的で、その「中長期の目標を実現するためには、短期的には痛みに耐える必要もある」というメッセージを出していますが、これを額面通りに受け取る人は少ないと思います。ですから、今回の関税戦争というのは、もっと短期的な効果を狙ったものと考えられます。

仮にそうだとしても、そこにはなお2つの謎が横たわっています。

1つは、具体的な関税の目的です。トランプ大統領の側近で、今回の関税戦争の仕掛け人と言われているピーター・ナバロ氏は、7日朝のCNBCの番組に出演した際に「高関税を財源として減税するのが目的なのか? それとも高関税というのはディールの材料なのか?」と問われると、明確な回答をしませんでした。

その一方で「相互関税で大不況になることは絶対にない。不況になるなどと言っている人は愚かだ。何故なら直後に大規模減税を行うからだ」という発言もしています。こうなると、市場関係者としては一体何がなんだか分からないことになり、少ない情報に一喜一憂して混乱を続けるしかなくなっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

東部要衝ポクロフスクで前進とロシア、ウクライナは包

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株安の流れ引き継ぐ 

ビジネス

世界のヘッジファンド、55%が上半期に仮想通貨へ投

ワールド

米政府機関閉鎖巡り与野党の対立解消見えず、7日に1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story