コラム

「日本企業への妨害」と「日本切り捨て」のリスク...トランプ復活で、日本は最大の標的に?

2024年03月07日(木)09時38分
アメリカのトヨタ工場

ハイブリッドが強みのトヨタなど、自動車をはじめとした日本の製造業が狙い撃ちされるリスクも(トヨタの米ケンタッキー工場) LUKE SHARRETTーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<1期目以上の「日本攻撃リスク」の増大が、経済改革や防衛戦略で日本に覚醒を促す(かも)。 本誌「もし『トランプ大統領』が復活したら」特集より>

共和党予備選において、ドナルド・トランプの進撃が止まらない。日本においても「2期目のトランプ」への対策は待ったなしだ。2015年以来、今日に至るトランプの言動の中には、日本敵視とも取れるコメントが繰り返されてきた。1期目の4年間には具体化はほぼ避けられたが、「2期目」には2つの点で具体化が懸念される。

1つは製造業への攻撃だ。既に現時点では、日本製鉄によるUSスチールの買収がトランプに妨害されている。懸念されるのは、自動車産業だ。

普及の過渡期にある電気自動車(EV)の弱点がこの冬の寒波で露呈したなかで、トヨタが得意とするハイブリッド車が見直されているが、トランプはこの分野にも保護主義的な圧力をかける可能性がある。官民挙げて進めている日本の半導体産業の再建についても妨害が心配だ。

2つ目は、安全保障政策の見直しだ。トランプが当選したらNATOから脱退するだろうという噂は絶えず、日米安保条約を破棄して在日米軍を撤退させる可能性も否定することはできない。岸田政権が防衛費をGDPの2%相当に増額しようとしているのも、この危険性を認識した上のことだ。

日本に関しては1970年代頃から始まった「安保タダ乗り論」などが歴史的に渦巻いており、トランプが大胆な「日本切り捨て」に走る危険性は十分にある。

懐に入る作戦はもう使えず

こうしたリスクに対して、自民党内には「故安倍晋三氏の人脈」を動員してトランプとの関係を維持すべきという声がある。だが、安倍氏があそこまで「懐に入る」ことができたのは、二代目の苦労などの共通点や、知識人への反発など個人的な共感があったからだ。

加えて、当時の外務省と官邸が「トランプというリスク」を正当に評価して先手先手で対応したチームプレーが成功した。

今回はこのパターンは使えない。岸田文雄首相だけでなく、後継に名前が挙がる上川陽子、小池百合子、石破茂、茂木敏充といった面々も、安倍氏のような腹芸は不可能だろう。天皇皇后両陛下にしても、2019年には雅子皇后がメラニア夫人と通訳抜きで親しく懇談、チークキスをするなど徹底的に接遇して成功したが、同じ手は二度と使えない。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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