コラム

それでも共和党が「トランプ離れ」できない理由

2022年12月08日(木)13時40分

注目されていたジョージア州上院選の再選挙では民主党が勝利したが…… Carlos Barria-REUTERS

<ジョージア州上院選の再選挙では民主党候補が勝利したが、その差はわずか。トランプ支持層の存在はまだまだ無視できない>

現地の12月6日(火)、夕方から夜にかけて政治的に大きな意味のある2つのニュースがアメリカを駆け巡りました。1つは、トランプ一家の経営するリゾートとカジノを中心とした企業「トランプ・オーガニゼーション」に対して、有罪判決が下されたニュースです。具体的には、脱税と業績の粉飾など17の罪状に対して有罪となり、罰金は最高160万ドル(約2億2000万円)とされています。

企業としての業績も思わしくないなかで、罰金の支払いを抱えることで経営が行き詰まるという可能性も指摘されています。トランプ側はあくまで「政治的に歪められた判決」だと抗議していますが、全米におけるトランプという存在への評価としては、明らかにマイナスになると言われています。

更に、この日に行われたジョージア州選出の連邦上院議員に関する再選挙では、民主党の現職ラファエル・ウォーノック候補が、共和党の新人ハーシェル・ウォーカー候補を破って議席を守りました。これによって、新年度の上院の勢力分布は、民主党の51議席に対して共和党の49議席となり、仮に民主党議員団に1人造反が出ても過半数を維持できることになりました。

トランプの影響力は低下?

敗北したウォーカー候補に関しては、アメリカンフットボールのNFLで12年プレーし、冬季五輪のボブスレー競技にも参加、各種格闘技への挑戦をしたり、外食や食品加工業の経営に参加したり、様々な経歴を持った一種のタレント候補と言えます。予備選では、農園主でジョージア州の農務長官を務めた保守本流のグレイ・ブラック候補が本命視されていたのですが、ウォーカー候補はテレビ討論などは無視してトランプと共に選挙戦に殴り込みをかけて共和党統一候補の座を奪ったのでした。

ただ、ウォーカー候補に関しては、予備選の当時から資質に関する疑問の声があっただけでなく、スキャンダルが多いことが話題となっていました。中絶禁止に賛成しておきながら、交際相手の女性に中絶を強いていたとか、別の女性に対してDVがあったなど、5件ほどの問題が取り沙汰されていました。

今回の再選挙では、そのウォーカー候補の落選が確定したことになります。ということは、選挙戦の敗北の責任は、無理にこの候補を「ねじ込んだ」ドナルド・トランプにあるという責任論が成り立ちます。アメリカの多くのメディアは、これでトランプの政治的影響力は更に低下するだろうという論評を掲げています。

では、このまま、トランプの影響力はスローダウンしていくのでしょうか? そう単純ではないという見方もできます。

何よりも、今回のジョージア州上院選再選挙の結果、勝ったのは民主党のウォーノック候補でしたが、決して大差ではありませんでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、28年副大統領候補への出馬否定 「あざ

ビジネス

米国株式市場・午前=主要3指数、日中最高値 米中貿

ワールド

ロシア大統領、北朝鮮外相と会談 両国関係は「全て計

ワールド

トランプ氏、ベトナム産コーヒーの関税免除 貿易協定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story