コラム

それでも共和党が「トランプ離れ」できない理由

2022年12月08日(木)13時40分

本稿の時点での暫定的な開票結果では、

▼(当選)ラファエル・ウォーノック(民主、現)1,814,847 票 51.4%
▼(落選)ハーシェル・ウォーカー (共和、新)1,719,396 票 48.6%

つまり、票数では95,451票の差であり、勝敗は明らかですが、得票率で言えば3ポイント差もない僅差でした。トランプ派の候補を立てて、しかも選挙戦で次々にスキャンダルが暴かれた中で、勝てはしなかったけれども票は相当に獲得したのです。

ところで、共和党の中では、この11月の知事選で共和党のケンプ知事が再選された票(約211万票)と比較すると、11月のウォーカー票は約20万票少ないとして、穏健保守層はトランプ派のウォーカーを嫌っていたという議論があります。確かにそうかもしれません。

「トランプ離れ」への遠い道のり

ですが、実は統一候補を決めた5月の予備選では、ウォーカー候補は68%を越える得票率(票数は約80万)で圧勝していたのです。つまり、ジョージア州を例に取ると、2022年5月の時点で著名なタレント候補だという要素があるにしても、党内の68%がトランプ派を支持したし、その候補が出馬した上院議員選では、敗れたものの全州の49%前後の集票力があったのです。その核には、予備選で穏健派ではなく、トランプ派を選択した80万票(全有権者の約11%)があると考えられます。

この約11%というのは、決して小さな数字ではありません。保守票の中に、現在はトランプ派と考えられる現状不満票が、全有権者の11%程度存在する、仮にこれがジョージアだけでなく、多くの保守州でもそうした傾向があるのであれば、これは全国レベルで政局を左右する存在だと思われます。

この保守現状不満層というのは、現時点では依然としてトランプを支持していると考えられます。そう考えると、トランプが諦めて政治キャリアを断念し、誰かを大統領候補として推薦し、しかもその人物がトランプと同じように「現状不満を抱えた保守票」にアピールすることができなければ、共和党としてはこの11%を取り込めない可能性があるわけです。

現時点でノーマルな予備選を行えば、トランプ包囲網を敷くことで共和党はトランプを排除できるかもしれません。ですが、そんなことをすれば保守の現状不満票は棄権してしまいます。あるいはトランプは第三極になって保守分裂を仕掛けてくるかもしれません。共和党にとって、「トランプ離れ」はまだまだ遠い道のりであると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story