コラム

日本の「コロナ出口戦略」における3つの問題

2022年11月30日(水)15時00分

集団免疫が獲得できていない日本では「出口戦略」がより困難に Kim Kyung Hoon/iStock.

<感染対策が感情的な「安心」対策へとシフトしていることの難しさ>

アメリカにおけるワールドシリーズなどの野球観戦、そして今回のカタールW杯でもそうですが、世界の多くの国々では大観衆を入れたスポーツイベントがマスクなし、声出しもありという「ノーマルモード」で開催されています。

そうした光景と比較しますと、ゼロコロナ政策により14億人という抗体価の低い集団を作り出してしまった中国は別として、日本の現状は難しさを抱えているように思います。つまり、なかなかコロナの「出口戦略」が見通せないからです。

問題は3つあるように思います。

1つはワクチン戦略です。アメリカの場合は反ワクチンの陰謀論は、右派にも左派にもあり、接種率は最低2回接種で68%と伸び悩んでいます。3回接種者になると34%しかありません。ですが、良くも悪くも感染を経験したことによる高い抗体値を持つ人口があること、感染を広げやすい5~11歳という児童の接種率が32%確保できていることなどから、トータルの「集団免疫」がある程度機能していると考えられます。

現在は、オミクロンのBA4.5からB1.1などの影響で、感染数は全国の合計では増加傾向にありますが、サイクルの早い東海岸では再生産率が0.87程度まで下がっており、日本の「第8波」ほどの大きな波にはなっていません。

日本の集団免疫は低いまま

一方で、日本の場合は3年にわたって欧米より徹底した感染対策が取られてきたこともあって、社会的な集団免疫は低いままです。一方で、感染力の強いオミクロン系統の場合は、マイクロ飛沫で広がることが想定され、クラシックな飛沫対策では対抗に限度がありそうです。だからこそ、ワクチンの接種率を高めていくことは必要と考えられます。

ですが、ここへ来て日本政府は「1・2回目を打たないと3・4・5回目へは進めない」という原則を維持している中で、「1・2回目接種は年内終了」という方針が取られています。これでは、3・4・5回目を打って免疫の壁をフレッシュに維持しようにも、その全体数はこれ以上拡大しません。

加えて、19%程度と言われる5~11歳の接種率ももう少し上げたいところです。いつの間にか「ワクチン担当大臣」というのも廃止になっていますし、岸田政権としては「ヤル気のなさ」が目立ちます。これ以上、接種を進めるには「ワクチンへの不信」を抱えた層を説得しなくてはならず、そんな政治的な無理はしたくないのかもしれませんが、冷静になって方針の再検討をお願いしたいところです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中閣僚貿易協議で「枠組み」到達とベセント氏、首脳

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 7
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 8
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story