コラム

アメリカがオミクロン「可視化」を先送りする理由

2021年12月22日(水)16時15分

バイデン政権はクリスマス帰省の自粛は要請しない方針 Evelyn Hockstein/iStock.

<オミクロン株はデルタ株より重症化率が低いという前提で、バイデン政権は多少の市中感染を規制事実にしようとしている>

アメリカでは、9~10月にかけて落ち着いていた新型コロナウイルスの感染が、ここへ来て再拡大しています。今回の感染拡大の特徴ですが、11月末の時点では「初期にワクチン接種を完了した人の抗体が弱くなってデルタ株の感染が広がり、ワクチン未接種の人が重症化する」という動きとなっていました。

ところが、12月に入るとこの「波」に重なるかのように、オミクロン株の感染拡大が始まりました。当初の数例に関しては、アフリカ滞在歴のある渡航者など個別の経緯が公表されていましたが、その後は国レベルでも、各州レベルでも具体的なオミクロン感染者の数字は発表しなくなっています。

そんななかで、本稿の時点では次のようなデータが報じられているのみです。

・オミクロン株による死者は、イギリスで12人、アメリカでは1人。
・米北東部では、オミクロンの市中感染が拡大し、ニューヨークでは新規感染の7割がオミクロンと推定される。

これ以上の「オミクロン」に関する数字は発表されていません。例えばですが、12月20日には1日の陽性者がニューヨーク州全体で2万439人であり、仮にその7割がオミクロンということですと、1万4000ということになりますが、そのような数字は発表されていません。本稿の時点では、ニューヨークの数字としては、ニューヨーク市が12月初旬の数字として「オミクロン感染者は192人」という発表をしているだけです。

同じコーネル大学は閉鎖

同じニューヨーク州でも、西部のイサカ市にあるコーネル大学では、感染の急拡大を受けて12月14日にキャンパスを閉鎖しています。その前後に発表された数字としては、新規陽性者は1442人で、そのうちオミクロン株が115例としています。こうした数字が出てきたというのは、大学という組織の特性から情報の透明性を重視しているためと思われますが、このような発表は他ではありません。

ニューヨーク州を例にとってお話ししていますが、オミクロンに関してはその他の州でも数字の公表ということでは、似たり寄ったりです。ですから、全国レベルで「今日までのオミクロン感染者の延べ人数」などを公表することも行われていません。

つまり、アメリカとしては「オミクロン株を可視化する」ことを先送りしている形です。そこには2つの理由があると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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