コラム

3.11から10年、迷走する日本のエネルギー政策

2021年03月11日(木)15時50分

仮にこの水素プロジェクトが順調に進まない場合、そして世論がどうしても原発再稼働に同意しない場合は、製造業を諦めて知的産業にシフトすることが最後の選択肢になります。その場合は、公用語を英語にしてコンピューターソフトの分野であらためて最前線に追いつく努力をするとか、英語で資金調達と民事紛争解決のできる環境を作って金融立国を目指すなど、教育や価値観の変革が喫緊の課題となります。

どの選択肢も痛みを伴います。ですが、水素輸入も、原発再稼働も、そして知的産業へのシフトも選択できない場合は、先進国の経済水準、すなわちドル換算で1人あたりGDP3万ドルのラインを割り込むことになります。その際に社会と個人が背負うであろう苦痛は、過去30年の景気低迷を上回るものとなる危険があります。

まずは、経産省が水素に関するプロジェクトの全体像を世論に説明することが必要です。とりわけ、現在オーストラリアとの間で進めている構想は、安全保障政策とも関係してきます。まずここで、基本的な方向性の合意を形成することが大切ではないでしょうか。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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