コラム

迷走するアメリカのコロナ対策 登校再開をめぐって分裂する世論

2020年12月01日(火)20時00分

感染予防の観点からオンライン授業を選ぶ家庭もあるが Lucy Nicholson-REUTERS

<共働きの世帯は子どもを学校に行かせたいが、余裕のある家庭は行かせたくない>

アメリカでは現在、新型コロナウイルスの感染拡大があらためて全国規模となっています。私の住むニュージャージー州など米国東北部では、3~4月に大きなピークがあり、その後は沈静化していましたが、11月の後半に入って明らかに数字が悪化してきました。隣のニューヨーク州も、あらためて医療体制に負荷が生じる事態となっています。

そんななかで、各市町村の教育現場は迷走しています。例えば、ニューヨーク市の場合は11月18日に、デブラシオ市長が公立学校における「生徒の登校をシャットダウン」して全面的にオンライン授業に切り替えました。

理由としては、7日間の移動平均値として、PCR検査における陽性率が3%を越えたからだとしています。従来からそのようなガイドラインを決めており、これに達したという理由で登校をストップさせたのです。

この対応には賛否両論が出ました。多くの保護者からは「レストランがまだ堂々と営業しているのに、学校を先に閉めるのは納得できない」という声が出ていたのです。そうした声に引きずられたのか、デブラシオ市長は29日になって「小学5年生以下については12月7日に登校を再開する」としています。

家庭の事情によって意見は分かれる

登校はすべての授業日ではなく「ハイブリッド方式」、つまり授業日の半分は登校し、半分は在宅でオンライン授業を受けるという形式になります。キンダーガーテン(つまり日本の年長にあたる5才児)から小学5年生が対象で、しかも事前に「フル在宅」ではなく「ハイブリッド希望」という手続きをしている家庭の児童のみが対象です。6年生以上の中高生は依然として100%オンラインになります。

では、今回は判断基準となる「陽性率の移動平均」はどうかというと、「3.9%」となっており基準値よりかなり高いわけです。ですから、保護者の中には「再開して大丈夫なのか?」という混乱が生じています。これに対してデブラシオ市長は、最新の調査結果と知見によれば生徒の安全性は保証できるとしていますが、市内の世論の中にはモヤモヤしたものが漂っているようです。

市長が迷走する背景には、世論の分裂があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

各国の新気候計画、世界の温室効果ガス排出が減少に転

ビジネス

三菱重やソフトバンクG、日米間の投資に関心表明 両

ワールド

日中外相が電話会談、ハイレベル交流は関係発展に重要

ビジネス

野村HD、7―9月期純利益921億円 株式関連が過
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 8
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story