コラム

戦没者を侮辱するトランプ、その発想をどう理解すれば良いのか?

2020年09月08日(火)17時30分

保守系メディアからも資質を疑う報道が Sarah Silbiger-REUTERS

<「保守」を標榜するトランプがなぜ戦没者を侮辱するのか、その心理を理解するのはかなり困難だが......>

人種差別反対デモが暴力を根絶できないことや、コロナ危機がややスローダウンしたことで、8月末にはトランプ大統領の支持率がやや持ち直しているという印象が広まりました。ですが、9月に入ると、今度は大統領の「戦没者侮辱発言」が報じられて、大統領への批判が高まっています。

発端は雑誌『アトランティック』が同誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長の署名記事として掲載した「トランプ、戦没米兵は愚か者で負け犬と発言」というコラムでした。

具体的には、2018年に第1次世界大戦の100周年にあたって、パリ郊外のアメリカ人戦没者墓地を訪問しようとしていたところ、雨が降っていたのと機嫌が悪かったことから、墓参を中止し、その際に戦没者墓地が「負け犬だらけ」だという発言があったのだそうです。

他にも同記事では、このフランス訪問中に、第1次世界大戦中にパリ市の攻防戦で奮戦した米海兵隊の戦没者について「バカ者」だと侮辱したそうです。大統領は、直ちに事実でないと抗議しましたが、ゴールドバーグ編集長は「この記事はまだ序の口で、もっと驚くべき情報がある」と徹底抗戦の構えです。

保守系のFOXニュースも......

さらに、保守系のケーブル・ニュース局、FOXニュースのジェニファー・グリフィン記者は『アトランティック』の報道は事実だとしたうえで、トランプ政権の元政府高官によれば、大統領は「ベトナム戦争に行った人間はバカ者」であるとか「国のために命を捧げる人間は理解できない。国にはそんな価値はない」という考え方をする人物だというコメントを紹介しています。

ちなみに、ゴールドバーグ編集長やグリフィン記者のネタ元は、ジョン・ケリー元大統領首席補佐官(海兵隊出身)という噂がありますが、ケリー氏は否定しています。いずれにしてもこの2つの報道によって、大統領は厳しい批判を受けています。

それにしても、「保守」を名乗り「アメリカ・ファースト」を宣言しているトランプが、どうして戦没者を侮辱するのでしょうか。その心理は、アメリカの常識とは大きくかけ離れており、なかなか理解し難いものがあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送中国サービスPMI、8月は53.0 15カ月ぶ

ワールド

豪GDP、第2四半期は約2年ぶり高い伸び 消費支出

ワールド

タイ与党、下院解散を要請 最大野党がライバル首相候

ビジネス

政府と連絡とりつつ為替市場の動向モニターしていきた
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story