コラム

トランプ演説原稿「破り捨て」は、再選阻止を誓うペロシの宣戦布告

2020年02月06日(木)15時45分

トランプは弾劾疑惑を、ペロシは教書演説を「シュレッダー」した!? Jonathan Ernst-REUTERS

<パフォーマンスの背景には、トランプ弾劾が終了するなかで、11月の本選に向けて民主党全党に結束をうながす狙いが>

今週4日、恒例となっている大統領の年頭一般教書演説ですが、今年の演説は一つのシーンによって歴史に残りそうです。と言うのも、演説終了と同時に議場を仕切っていたナンシー・ペロシ下院議長が、大統領の演説原稿を破り捨てるという「動画映え」する行為に出たからです。

翌朝の各局のテレビニュースは繰り返しこのシーンを放映していましたし、それ以前に、この「演説原稿破り捨て」の映像はSNSで一気に拡散されました。

もちろん、大変に異例な行為ですが、伏線はいくつかありました。まず、ペロシ議長が率いる連邦下院は、トランプ大統領に対する弾劾決議を可決しています。実際は、この演説の翌日に上院が訴追を否決、弾劾は成立しませんでした。そして演説のタイミングでは、そのことは確定的であったのも事実です。

ですが、あくまで連邦下院として「職務から除去すべき」という憲法上の決定を行った、その大統領が行う演説については「全否定」をして当然という考え方があったとしても、その下院の議長としての筋は通っています。

ペロシの差し出した握手を無視

一方で、常にこのペロシ議長を突き上げ続けて、最終的には「渋々ながら弾劾プロセスの開始に追い込んだ」グループの代表格である、AOCことアレクサンドリア・オカシオコルテス議員(下院民主、NY14区、当選1回)は、この大統領の一般教書演説をボイコットしています。

AOCの「ボイコット」というのは激しい手段ですが、これに対して議長として下院民主党議員団のなかで同じような「重み」を表現するために「原稿破り捨て」という行動に至ったということはあると思います。

直接的には、演説の冒頭で大統領が予め用意されていた原稿を、ペロシ議長に渡した際に、ペロシ議長が握手のために手を差し出したのに、大統領が無視したというのが「現場での伏線」となったようです。直後に議長は、議事進行のセリフとして大統領を紹介する際に、慣例となっていた敬語表現を完全にカットしていましたが、その辺りで覚悟を決めていたのかもしれません。

更に、演説の途中で議長は、何度も何度も演説原稿を1枚1枚持ち上げてチェックしていますが、これも「破り捨て」の伏線と言えなくもありません。また、途中で民主党議員団から、連邦議会では珍しい「ヤジ」が飛んだ際には厳しく睨みつけて手で制止していました。これも、最後の「破り捨て」を念頭にした演出だった可能性があります。

最大の理由はその内容です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

東ティモール、ASEAN加盟 11カ国目

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story