コラム

日産・ルノー・三菱連合が、「自動運転車開発」提携でグーグルにのみ込まれる?

2019年02月07日(木)15時00分

ウェイモは自動運転開発で最も完成形に近い勢力の1つ(画像は昨年5月の開発者会議で語るクラフチックCEO) Stephen Lam-REUTERS

<当の日仏連合は報道を「憶測」だと否定するが、事実だとすればシリコンバレーの巨大企業体にのみ込まれる懸念が>

日産・ルノー・三菱連合は、自動運転車の開発において、グーグル系列であるウェイモ社との包括的な提携を行うという報道が流れています。一部には歓迎する意見もありますが、警戒しながら見てゆく必要も感じられます。タイミングも含めて懸念を感じるからです。

懸念の1つは組む相手としてグーグル(正確にはその持ち株会社アルファベット傘下のウェイモ社)が大き過ぎるという点です。資金力、時価総額という意味でものみ込まれる危険があります。

例えば、グーグルはモトローラ社の携帯電話ビジネスを買収して、グーグルの独自ブランド(現在は「PIXEL」)として販売しています。生産体制や、ハードの設計要員などはモトローラ社から継承していると見られますが、モトローラというブランドの面影は残っていません。そのようになる可能性もあります。

2点目は、自動運転のパッケージという意味で、このウェイモ社というのは最も完成形に近い勢力の一つだということです。自動運転技術というのは、ある状況で人間はこのように運転するという判断記録のビッグデータ、そして3Dの高精細地図の情報、そして周囲の状況を収集する高精度センサーが吐き出すデータの分析技術など、多くのソフト面での技術で構成されています。

仮に、そうしたソフト技術を持った多くの企業とバラバラに契約するのであれば、日産・ルノーは自動運転開発のイニシアティブを取ることも可能です。ですが、ウェイモのようにかなり全体的なパッケージに近い技術を持った相手と組んでは、開発のイニシアティブを取られてしまう危険があります。

つまり自動車のハード部分、つまり操縦、動力、制動、艤装、ボディといった「自動車のハードウェア」のノウハウをコモディティ化しつつ買い叩かれて終わる可能性があるのです。

3点目は、グーグルという巨大な勢力と組むことになれば、日産・ルノー・三菱連合が固定化してしまう点です。三社連合の中で日産がリーダーシップを発揮するとか、それが不可能なら離脱するというような展開は難しくなります。つまり、現在の連合が固定化して、そのままのみ込まれる危険があるのです。

気になるのは、カルロス・ゴーン氏が日本で逮捕されており、グループ全体を統括するリーダーシップが不在である点です。3社連合は、当面残った経営陣が合議制で運営していくのでしょうが、連合を率いるリーダーは不在です。そんな中で、このような連合の命運を左右するような判断が下されるということに、どうしても不安を覚えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story