コラム

トランプの一般教書演説、最大の注目点は?

2019年02月05日(火)15時00分

そんなわけで、「一方的に非常事態宣言をして壁を建設する」のは、ほぼ不可能と言われています。

では、大統領には何ができるのでしょうか?

この「一般教書演説」には一つの「お約束」があります。

それは演説の中で、「ステート・オブ・ユニオン(合衆国が一致団結している状態)」は「ストロング」だという部分です。大統領としては、これを言って大見得を切り、議場は全員が総立ちになって拍手をするというのが「お決まり」であるわけです。

この「ステート・オブ・ユニオン」を取って、この演説のことは「ステート・オブ・ユニオン・アドレス(演説)」と名付けられているぐらいです。

では、現時点の「ステート(状態)」はどうでしょう?

団結どころではないわけです。大統領は「壁」に固執して世論と議会の多数と対立している、一方で議会には妥協の姿勢はゼロ。これでは、「ユニオン(団結)」などあり得ません。

そんな中で、大統領として「国の団結は最高の状態だ」と宣言しても場内が怒号の嵐となるのは目に見えています。それでも、この大統領は居直ったような姿勢を取るかもしれません。

反対の可能性もあります。大統領としては、この際、「ステート・オブ・ユニオン」など「ない」と宣言するというシナリオです。その上でその責任は「フェイクニュース」のメディアと、「ラジカライズ(過激化)」した民主党にあると、思い切り喧嘩を売る、そんな可能性もゼロではありません。

そうなれば場内は一層の怒号の嵐になり、米国政治史上の最大の汚点になる、そんな解説もされるかもしれません。その結果、現在41%の支持率が35%とかそれ以下の超危険水域になるかもしれません。そうなれば、共和党は次回の議会選挙での「大統領との共倒れ」を嫌って、ペンス副大統領の昇任か、あるいは予備選で大統領を負かせて別候補とスイッチするなどの動きを始めるかもしれません。

本当は、大統領としては「一方的な壁建設政策」を少し引っ込めて、議会との和解を訴えるべきです。そうすれば、支持率ダウンには歯止めがかかり、議会との対話も始まるかもしれません。ですが、その可能性は低いと思われます。

いずれにしても、トランプという人は、何をしでかすか分かりません。「国の団結などない」という爆弾発言をする可能性もあれば、堂々と「国の団結は最高」などと居直る可能性もあります。今回の演説では、ここが最大の注目点になると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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