コラム

選挙直前のユダヤ教徒へのヘイト犯罪、トランプはスルーする構え

2018年10月30日(火)19時30分

一方の乱射犯の方は、「トランプは真のナショナリストではなくグローバリスト」だとして、大統領も批判の対象としている「極右」ですが、凶行に及んだ直接の契機としては「移民キャラバンの背景にはユダヤ人」がいるからだと述べています。容疑者は「アメリカを破壊する陰謀」だとか「殺される前に立ち上がらねば」などという激しい言葉をSNSに書き込んでおり、こちらも「移民キャラバンへのソロスの支援」というデマを信じていたことが背景にあるようです。

そして、この「移民キャラバン」へのヘイト感情を煽っていたのは、他でもない大統領自身であることは間違いありません。トランプは、2つの事件を経験した後の29日になっても「キャラバンを入れないために入国禁止令を出す」とか、「国境に5000から5200の兵力を送る」として、態度をエスカレートさせる一方であり、全く方針変更をする気配はありません。

大統領は、就任以来「政敵やメディアへの罵声」とか「白人至上主義の暴力と反対派の実力行使は同罪」などという発言を繰り返して、国内の憎悪感情を煽ってきました。そのために、例えばニューヨーク市内では2017年から、それまで見られなかったようなユダヤ教徒へのヘイトクライムが散発的に起きるようになっていたのです。

そうした状況を批判されると、大統領は「娘夫婦がユダヤ教徒だし、イスラエルとの同盟関係を誰よりも重視している」から、自分は「アンチ・ユダヤ」とは全く関係ないということを繰り返し主張していました。と言うことは、本当に自分は「そういうつもり」なのかもしれません。

ですが、アメリカの右派、特にネオナチとか白人至上主義者の間には、「アンチ・ユダヤ」のどす黒い感情が渦巻いているのは、歴史的にも長い背景があるわけで、そのことを考えると大統領の弁明は、特にユダヤ系の人々にはまったく届いていないと思われます。

今回の事件は、余りにも悪質であり、同時に余りにも投票日に近いために、政治的なインパクトがどのような形で投票行動に反映するのかは、見極めるのが極めて困難です。とりあえず、乱射事件について、大統領は「自分には責任はない」ということで、スルーしようとしているようです。

それで共和党支持層が団結を維持できるのか、民主党支持者や中道層が危機感を抱いて投票所に向かうのか、まだハッキリした流れは見えていません。ですが、政治的に大きなターニングポイントに差し掛かったという意識で、日々の政局に注意を払って見ていく必要があるでしょう。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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