コラム

トランプ「貿易戦争」の狙いは何か?

2018年03月27日(火)16時15分

トランプには刺激的な政策で何とか支持を繋ぎとめたい思惑がある Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプが貿易戦争を仕掛けた背景には、政権への逆風がおさまならないなかで、対外強硬策を打ち出して支持を繋ぎとめたい思惑がある>

鉄鋼やアルミに関税をかけるという話にも驚きましたが、トランプ政権は中国に対してはさらに知的財産権問題の制裁などとして、輸入品約500億ドル(約5兆3000億円)に対する関税を決めました。これを大統領令で進めるというのですから規模も含めて、極めて異例です。これは、21世紀の国際分業を否定するものですし、そのために短期的にも中長期的にも米国のGDPにはマイナスの効果になると思われます。

中国に関して言えば、知的財産権に関してクレームをつけるのは根拠のない話ではないのですが、「知的財産権の正常化」を要求するのではなく、別の分野で制裁関税というのは安易な手法です。

アメリカの株式市場がこれを嫌ったのは当然ですが、では自国のGDPにはマイナスとなり、株価を押し下げるような政策をどうしてトランプ大統領は強行しているのか、そこには3つの要因があると思います。

1つは政治的な現状です。トランプ政権への支持率については、40%前後で推移しており、急降下ということはありません。ですがこの間、ジワジワと情勢が変化しているのが中間選挙の選挙戦です。ペンシルベニア州第18選挙区の下院補選で、共和党が「まさかの敗北」を喫したのは氷山の一角で、盤石と思われていた下院の多数が守れるのか厳しい状況になりつつあります。

仮に共和党が敗北して、下院の多数党が民主党になると、弾劾裁判の「訴追」ができてしまうわけで、政権としては非常に危機感を持っています。政権の周囲でも、相変わらずロシア疑惑は続いていますし、最近は「大統領の下半身スキャンダル」が3人の女性から告発を受けるとか、メラニア夫人との不破、長男の離婚などゴシップ記事には事欠かない状況になっています。そうした中で、刺激的な政策で何とか「コア支持者」を繋ぎ止めたいということはあると思います。

2つ目は、担当大臣のロス商務長官です。大統領にとっては古い知り合いであり、80年代の貿易戦争的な「レトロ感覚」も同じです。そして通商強硬派というイメージもあり、ロス長官本人としても「自分らしさ」を発揮できるということなのでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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