コラム

データ偽装問題と無資格検査、全く違う国際的影響

2017年11月30日(木)16時15分

東レの子会社でもタイヤ部品の製品データ改ざんが発覚した(会見で陳謝する東レの経営陣) Issei Kato-REUTERS

<一連の製品データ偽装は、日本の製造業に対する国際的なイメージ低下を招いているが、自動車メーカーの無資格検査は国内基準のため国際的影響は少なく、2つの事象は同列には扱えない>

神戸製鋼と三菱マテリアル(子会社の三菱電線工業、三菱伸銅、三菱アルミニウム)に続いて、東レでも子会社の東レハイブリッドコードで販売して納入した製品に関するデータが偽装されており、正規の品質基準を満たしていない製品が流通していたことが明るみになりました。また10月末以降、日産とSUBARUについては、資格試験に合格していない検査員が「完成車検査」を行なっていたことが、明らかになっています。

こうした状況を受けて、世界では日本の製造業の評価が下がったとか、「日本製品」のブランドに傷が付いたという報道がされています。ですが、国際的な影響ということを考えてみると、「神戸製鋼、三菱マテリアル、東レ」の問題と、「日産、SUBARU」の問題は、全く質の違う問題です。その点で、全部をまとめて「劣化する日本の製造業」と言うのは違和感があります。

まず神戸製鋼、三菱マテリアル、東レにおけるデータ、あるいは品質の偽装については、弁解の余地はないと思います。例えば、神戸製鋼の問題については、明るみに出た当時は日本では衆院選の報道におされていたわけですが、アメリカでは大変に大きく取り上げられていました。日本の製造業のイメージ低下という以前に、神戸製鋼の製品を使用している世界の多くの企業がこの問題への対応を迫られていたからです。

三菱マテリアルと、東レの場合は国際的な影響については、まだ十分な情報がありませんが、やはり日本の製造業の評価を傷つけるのではないかと心配になります。特に東レの場合は、問題が発覚したのが「タイヤコード」つまりタイヤの骨格に当たる部分に使用する繊維製品を製造する子会社で、今後、使用しているタイヤの安全性などが問われる可能性があります。

一方で、この時期日本では、日産とSUBARUにおける「無資格検査員が完成車検査を行なっていた」という問題が大きな話題になっていました。ですが、この無資格検査については国際問題にはなっていません。というのは、この「資格を持った検査員による完成車検査」というのは、日本の公道を走るための「検定」であって、所轄の官庁も産業振興を担当する経産省ではなく、日本国内の制度を運用している国交省だからです。つまり、実際に日本の工場から出荷する場合であっても、輸出の対象となる車両は関係がないからです。

さらに言えば、この「資格を持った検査員による完成車検査」というのは、時代の流れを受けて改革が必要とされているわけで、現状が必ずしも消費者への「安全なクルマを提供する」という目的に100%かなっているわけでもありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人

ビジネス

日銀総裁、首相と意見交換 「政府と連絡し為替市場を

ワールド

ロシア、インドと地対空ミサイルS400の追加供給交

ワールド

中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story