コラム

北方領土問題をめぐる日本世論の2つの誤解

2017年02月09日(木)12時30分


その背景には、根室を中心とした日本側と、北方四島のロシア住民との交流事業が続く中で、日本側には「北方四島に現在住んでいるロシア人との友好・信頼関係を作ることが、返還につながる」という考え方、態度が確立していることがあります。

この交流事業には、日本側からの「ビザなし渡航」や「墓参」という活動がありますが、ロシア側からは救急医療体制の脆弱な北方四島で緊急性の高いロシア人の患者が出た場合、日本側が受け入れて治療するということが1998年頃から行われています。現在は毎年20人(2015年度)程度がコンスタントに受け入れられて救急医療が提供されています。また、北方四島に勤務するロシア人の医師・看護師等への研修事業も行われており、毎年3人程度が日本で研修を受けています。

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納沙布岬から見た歯舞諸島。貝殻島灯台(3.7キロ先)の向こうに雪に覆われた勇留(ゆり)島(16.6キロ先)がはっきり見える(筆者撮影)

2つ目の誤解は、今回進められている「共同経済活動」を進めることは、北方四島におけるロシアの主権を「より認める」ことで、そのような妥協をすることで「領土の回復」は「遠のく」というものです。

まず、この「共同経済活動」というのは、一般的には「なじみの薄い」考え方ですが、2006年に根室の地元から提案され、その時点で四島のロシア系住民からも賛同の声が上がっていたそうです。その後、「日本への帰属」という問題を優先する考え方との間で調整に時間がかかり、今回の「長門会談」を契機としてこれを国策としてロシアと交渉することが決まったという経緯があります。

【参考記事】プーチンの思うつぼ? 北方領土「最終決着」の落とし穴

この「共同経済活動」は、具体的には4つのジャンルにわたっています。それは「医療」「漁業」「環境」「観光」の4つです。その中で「医療」に関しては従来の協力を拡大する方向ですが、これに加えて「漁業」については、長年の懸案であった「拿捕のない安全操業」と「日ロ共同での資源管理」が実現するのであれば大きな前進となります。

さらに「環境」ですが、これは旧共産主義体制の時代から環境問題で荒廃が進んでいた4島について、日本が資金と技術の協力を行うことで抜本的な改善を進めるというものです。その上で「観光」つまり、四島を観光資源としてロシア側からも日本側からも観光客の誘致が可能となり、双方の雇用拡大になるという構想です。

この「共同経済活動」が少しずつでも拡大していけば、ロシア系住民との交流は重層的なものとなり、その中で信頼関係がより強固となれば、やがて帰属問題についても日本に有利な交渉が開ける可能性が出てくる、根室の地元はこの立場でほぼ固まっているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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