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共和党予備選で盛り上がる「政権交代外交」否定論
ですから、この2つがセットになることで、左派ではなく右派的な主張になるのです。さらに言えば、カダフィ打倒に手を貸し、今もアサド打倒を考えている共和党の「軍事タカ派」、つまりジョン・マケインやリンゼー・グラハムへの「アンチ」にもなります。
さらに言えば、そうした「独裁政権許容論」というのは、ヒラリー・クリントンの政治姿勢に真っ向から対立するものです。ヒラリーの行動理念というのは、いわば「リベラル・ホーク」つまりリベラルなタカ派とでも言うべきもので、人道危機や民主化要求運動には積極的に介入して「自由と民主主義、人権」という普遍的な価値を世界に普及させようという思想です。ですから、この「レジーム・チェンジの否定」というのは、そのいわば「ヒラリー主義」の全否定になります。
また、この主張は共和党の伝統である「孤立主義」とも整合性があります。トランプと言えば、ロシアのプーチン大統領とお互いに「称賛しあう」妙な関係になっていますが、その「プーチン許容論」も、この「独裁政権許容論」の一つだと見ることができます。そして、プーチンを認めて、アサド政権も認めれば、ISIL攻撃の体制はかなりシンプルになるという、かなり粗っぽい単純化もされています。
この「レジーム・チェンジ否定論」あるいは「独裁政治許容論」ですが、こうした世論感情はトランプ旋風だけでなく、共和党の一定の部分に浸透しつつあると見るべきでしょう。ブッシュもオバマもマケインも、そしてヒラリーも「ぶっ飛ばせ」というわけです。
ですが、自分たちは「アメリカを再び偉大にする」と称しておきながら、理念型の外交を否定するというのは、大変に危険な考え方だと思います。フセインもプーチンも認めるのであれば、経済的な関係の深い中国の共産党独裁体制も「損得の話」としてアッサリ認めてしまう、そんな危険性も感じられます。
共和党では今、こうしたトランプ=クルーズの動きに対して、マルコ・ルビオ議員が「伝統的な共和党の現実路線」を代弁して対抗しようとしていますが、現時点ではまだ対抗できるほどの支持を得ていません。この「レジーム・チェンジ否定論」が今後どう動くか、注意して見ていく必要がありそうです。