コラム

同性婚を認めない事務官が、一時収監された経緯

2015年09月15日(火)17時00分

同性婚の婚姻証明書の発行を拒否した郡事務官キム・デービス氏は、一時収監された Chris Tilley-REUTERS

 アメリカでは、同性婚を認めるかどうかの論争が90年代から続いてきました。いわゆる宗教保守派が「婚姻は男女に限る」として強硬に反対していたためです。例えば、2008年の最初の大統領選挙で、オバマ大統領は「同性婚の全米での合法化」を公約には掲げませんでした。それどころか、個人として「同性婚に賛成か反対か」という点も曖昧にしていたのです。

 オバマ大統領が「個人として賛成」とハッキリ述べたのは、再選を目指す選挙戦の最中である2012年の5月のことでした。しかも先にバイデン副大統領に「賛成」と言わせて「外堀が埋まった」後に、「自分も考えが変わった」と恐る恐る立場の変更を宣言したのでした。

 この問題に関しては、例えば銃規制問題と同じように「大統領として国論が二分するような行動は取らない」というオバマ大統領の「慎重姿勢」が表面化したと言えるでしょう。

 ですが、そのうちに時間はどんどん経過して、同性婚に抵抗のない世代が有権者となり、また過去において慎重だった人も時代の流れを受けて立場を変えてきたのです。それでも、当分の間は「州ごとに異なる判断」が続くと思われていました。

 しかしながら、今年の6月に、連邦最高裁が予想に反して「全米レベルで同性婚を憲法上の権利として認める」という判決を下したことにより、この論争に終止符が打たれました。最高裁の憲法判断は即時に効力を発揮するため、全米のどの州においても同性婚の「権利」が発効したのです。

 ところが、この夏ケンタッキー州ローワン郡の「郡事務官(カウンティ・クラーク)」である、キム・デービスさんは、同性カップルに対して「結婚証明書(マリッジ・ライセンス)」の発行を拒否し続けて大問題になりました。

 連邦最高裁の判決が出た以上は許されない行為なのですが、デービスさんは「信仰に反する」、「神が許さない」として拒み続けたため、このローワン郡の郡庁舎には連日のように「抗議デモ」と「支持デモ」が押し寄せて大騒ぎになったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、S&P500年末予想を5500に引き上げ

ビジネス

UAE経済は好調 今年予想上回る4%成長へ IMF

ワールド

ニューカレドニア、空港閉鎖で観光客足止め 仏から警

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 8

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story