コラム

東大「秋入学」の前にやるべきこと

2011年07月08日(金)17時53分

 正式に発表されたわけではないのですが、東京大学が「秋入学」への移行を検討しているようです。報道によれば、欧米の大学と同じように9月に新学年をスタートして、5~7月にかけて年度が終わるようにすれば、日本の学生が欧米に留学する際にも、欧米の学生が東大に留学してくるのにも便利であり、そのようにして大学の国際競争に勝ち残ってゆくのが主旨ということのようです。

 何となく良さそうな話ですが、折角そこまでの改革を考えるのであれば、本当に効果を期待できるよう、具体的なアイディアを詰めて欲しいと思います。以下は、そのためのメモ書きです。

 まず、キチンとした提携校、姉妹校のネットワークを確立することです。秋入学のサイクルが回ってゆくということは、半年(1セメスター)ではなく、通年(2セメスター)での留学が可能になるわけですが、その1年間を工学部にしても、法科や経済にしても、学生の専攻に取って意味のあるコースを受講し、それが出身校での履修内容とうまく接続することが大事です。そうしたカリキュラムの擦り合わせのできる提携関係がどうしても必要です。

 秋入学のサイクルが回り出せば、海外からの通年での交換留学の受け入れにも便利です。ただ、海外からの交換留学で日本に来る学生の多くは、日本のカルチャーに魅力を感じてやってくるという動機が強いのです。悪いことではないのですが、それでは仮に日本の学生が海外への志向を持って行った場合に、意識の上ですれ違いになるのではないでしょうか。これを避けるためには、日本で英語による世界的水準での講義が受けられるということが必要です。

そのためには、提携校との人事交流や、場合によっては大胆な引き抜きなどもドンドン進めるべきでしょう。

 今は、東大を含めた多くの大学が「英語による講義」を増やそうと試行錯誤を続けています。ですが、英語が母国語でない日本人教官が、これまた英語が母国語でない日本人の学生を相手にするというのでは、効果は限られます。海外から、イキの良い気鋭の教官を引っ張って来る、その魅力に惹かれて交換留学で来た学生が授業を盛り上げる、そうすれば日本人の学生も真剣にならざるを得なくなるのではと思います。

 以上のようなお話をすると、いかにも現実離れした発想のように感じられるかもしれません。ですが、こうした「ホンモノ」のヒトの交流、教育水準のレベルアップなくしては、折角「秋入学」を実施しても効果は薄く、結局は優秀な日本の学生の海外流出がジワジワと進むことになると思います。

 もしかしたら、東大は3月に入試を行った後で、アメリカの大学の「入学意思表示締め切り日」である、5月1日に大量の辞退者が出るようになったら、補欠合格で辻褄を合わせるつもりなのかもしれません。それが、秋入学の実施の主要な動機では困ります。とにかくやるのなら、本気で教育内容の国際化を進めて欲しいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story