コラム

政治的ポイント重ねるオバマ、再選に立ちはだかる挑戦者は誰になるのか?

2011年05月27日(金)12時13分

 ビンラディンへの対応以来、オバマの支持率は高止まりどころか、その後もジリジリ上昇に転じています。度重なる悲惨な竜巻被害へのメッセージも的確である一方で、「中東演説」でパレスチナ和平問題における国境線の譲歩をイスラエルに要求するなど、政治的なアクションをどんどん進めています。これには、イスラエルは猛反発したものの、ネタニヤフ首相は「一定の譲歩」を口にするなど、政治的には「オバマの勝ち」となっています。

 そのオバマですが、フランスでのG8へ向かう途中、アイルランドを訪問していますが、自分の母親のルーツがアイリッシュだということで「祖先の国に来た」と演説すると大喝采を浴びたそうです。アイルランドでのオバマ人気、しかも黒人大統領というイメージが強いオバマが「アイルランドが祖国」という言い方をすることが、そのアイルランドで自然に受け止められたというのは、オバマが過去に積み重ねてきた「紛争仲裁者」というイメージが、つい昨日まで英国との厳しい対立を経験していたこの国の人々の琴線に触れたのだと思います。

 アイルランドに続いては英国で、今回は女王主宰の国賓晩餐会がメインという文字通りの公式訪問となりました。乾杯のタイミングで女王と呼吸がズレたり、英国の護衛官たちに「頭の切れるヤツ」という意味の妙なコードネームで呼ばれていたことがスッパ抜かれたり、何かと話題を振りまきながらの訪英でした。

 2012年の大統領選で、そのオバマに挑戦する共和党の候補はそろそろ予備選レースが本格化しなくてはならない時期を迎えています。ですが、従来ですと選挙前年の夏が近づくこの時期は、既に「政治の季節」になってもおかしくないのですが、今回の場合は今ひとつ盛り上がりに欠けています。

 この欄でお伝えしたように、ティーパーティーが一旦はペイリンをリーダー視したものの、そのペイリンは失速。今度はトランプを担いでみたものの、トランプにも逃げられたという迷走をしているのも原因の1つです。ちなみに、この間のアメリカではウィスコンシンでの州職員組合と知事のバトルに見られるように、財政危機からリストラに走る行政と、労組の対立が続いています。その激しさを見ると、知事の背後で支えている世論におけるティーパーティーはまだ健在のように見えます。

 ですが、実はこの辺が微妙なところなのですが、こうした政府のリストラとか反組合という運動に関して言えば、ワシントンの権威に挑戦した「反エリート」運動としてのティーパーティーが主導しているというよりも、共和党の本流もそれに合流していると見ることもできるのです。

 つまり、ペイリンやトランプなどの「純粋アウトサイダー」を担いでいる間は、反エスタブリッシュメント、つまり共和党でも主流派には反対するという形での「ティーパーティーという政治的圧力」が存在していたのです。ですが、いつの間にか共和党主流派も「激しい歳出カット」という政策に関しては差がなくなってきた中で、「党内党」としてのティーパーティーと主流派の境界もウヤムヤになってきたと言って構わない、そんな状況になってきているのです。

 ちなみに、そのトランプや、草の根保守のヒーローである牧師のハッカビー(元アーカンソー知事)などの場合は、TVの人気番組を持っているために、それぞれの局(トランプはNBC、ハッカビーはFOX)から「大統領選に出るなら番組打ち切り」と態度を鮮明にするように迫られる中、アッサリ「TV番組の方を優先した」という要素もあるかもしれません。彼等なりに機を見るに敏ということです。

 ちなみに女性軍のペイリンとバックマンは、今のところは撤退はしていないのですが、世論調査の数字は芳しくないので、資金集めの動向によっては早期に撤退に追い込まれる可能性もあるように思います。

 ということで、現時点での有力候補は次の3人に絞られています。

 トップを走るのはミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事で、彼は2008年の予備選でも善戦した大物です。実務能力の高さは信頼されていますが、知事時代に「州民皆保険」を実現したことから、共和党右派からは「オバマの医療保険改革と同様の思想の持ち主」と叩かれています。裏返せば、それだけ中道寄りの実務家ということでしょう。

 次は、ニュート・ギングリッチ元下院議長、彼は90年代にクリントン政権と「均衡財政の実現」を要求して大バトルを繰り広げた結果、「リストラは抑制した一方で、景気過熱による税収増」を実現したクリントンに政治的敗北を喫した過去があります。悪く言えば負けた過去ですが、良く言えば果敢に戦った経歴であり、後者が評価される中での10年ぶりの復権ということになったわけです。

 3番手は、前ミネソタ州知事のティム・ポウレンティ。彼は2008年の選挙で、ギリギリまでマケインの「副」に指名されると噂された人物で、堅実な実務家という定評がありますが、イメージとしては地味な存在です。

 こらからの展開ですが、仮にオバマがこのまま磐石なようですと、この「実務家トリオ」の中から候補を絞り、それにペイリンもしくはバックマンなどの「草の根受け」しそうな候補を「副」に(ペイリンは「副」はもうイヤと言うかもしれませんが)つけて選挙の体裁を整え、党内の分裂を避けつつ同時選挙になる議会の議席を守る戦略になるのではと思います。

 逆に、景気が大きく腰折れし、雇用も暗転するようですと、ペイリンを大統領候補にして「旋風再び」という流れにする、その代わりに「副」には「実務家トリオ」の誰かをつけて、万が一政権を取った場合に実務的に回るような信頼感を示す、そんな可能性もゼロではありません。

 とにかくオバマ中心の政局は当面続くでしょう。G8でその勢いは更に加速するものと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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