プレスリリース

IEEEが提言を発表 動物の顔認証をアニマルケアや動物保護に応用

2025年06月24日(火)15時30分
IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。


人工知能が動物の顔を識別できるようになり、顔認証技術が急速に発展しています。
長い間、獣医師や畜産農家など動物に関わる人は、観察や経験を頼りに動物の健康状態を判断したり、個体を特定したりしてきました。わずかな手がかりから痛みを見極め、多数の中から特定の個体を識別することは、人間の判断だけでは困難でした。
ですが、人工知能により、「動物の表情を読む」ことができるようになります。顔の特徴を分析して動物のウェルビーイングや個体を把握するためのAIシステムの開発が進んでいます。
この技術は野生動物でも飼育下の動物でも同じように活用できます。IEEEフェローのカレン・パネッタ氏(Karen Panetta)は、人工知能を活用して野生動物の健康状態を評価するプロジェクトに関わっています。


■野生動物の健康状態をどのように判断するのでしょうか?
「ゾウを体重計に乗せたり、カバに『歯の具合を見るから口を大きく開けて』と頼んだりすることはできません。また、健康状態を調べるために動物に麻酔をかけることは、動物にとっても接触する人間にとっても極めて危険です」とPanettaは言います。「カメラトラップのモーションセンサーやドローンの撮影画像を使うことで、AIによる動物の検出や追跡、そして個体の識別が可能となります。」


■動物に顔認証を応用する理由
顔認証技術の動物への活用例は様々です。
痛みの識別:動物の痛みを判別するのは困難です。そもそも、動物は話すことができません。また、痛みを見せることで捕食者に攻撃される可能性が高くなるため、多くの動物は痛みを隠そうとします。
ですが、動物が苦痛を感じているかもしれないことを示すわずかな手がかりが存在します。この方法は、ウマ、ヤギ、そしてネコなどのペットに応用されています。
動物が痛みを感じているかどうかを判断する以上のことを試みるシステムもあります。痛みを定量化しようとするものです。この情報は、獣医師が、まずどの動物から治療すべきかを判断するのに役立ちます。

家系図をたどる:大規模な羊の群れにおいては、どの雄羊がどの子羊の父親であるかを識別するのが困難な場合もあります。こういった場面でも、このような情報は、選抜育種を実施している畜産農家にとって有用な、重要なものとなります。ニュージーランドでは、顔認証技術を活用して、羊の血縁関係を特定する研究が進められています。この技術を用いたある研究では、約68%の精度が示されました。

死亡にいたる可能性のある魚類の安全性の向上:日本、中国、韓国ではフグが珍重されています。好まれる食材である一方で、フグの一部の部位には人間にとって強い毒性があり、誤って食べると命に関わる危険もあります。そのため、米国ではフグの輸入は禁止されています。
この毒は自然由来のもので、フグの野生環境における摂食によるものです。中国のフグ養殖業者は、フグの体内に毒素が蓄積しない餌を使った養殖を始めています。これによりフグの新たな市場が形成された一方で、野生のフグによる健康被害は今でも発生しています。こういった背景から、販売されるすべてのフグを認定養殖業者に紐づけて証明するトレーサビリティのニーズが高まっています。
IEEE Xploreの記事では、フグの模様が個体ごとに異なることが指摘されています。研究者たちは、顔認識技術の要素をいくつか組み合わせてフグに応用し、有望な実験結果を得ています。

動物保護:一時、絶滅の寸前にあったジャイアントパンダは今も絶滅危惧種ですが、大規模な保護活動により、個体数が着実に回復しています。ですが、引き続きモニタリングが必要です。野生動物の保護活動家は、体毛や糞のDNA検査、動物の捕獲およびリリースなど、様々な手法を用いてパンダの個体数を監視しています。このような方法は、手間がかかり、侵襲性があります。
トレイルカメラを用いた顔認識は研究者に大きなメリットをもたらし得るものですが、課題も存在します。パンダはなかなか出会えないため、トレーニングに活用できる、明るい場所で適切な角度でパンダを捉えた画像データセットが大量に揃わない場合もあります。これに対処するために開発されたPandaFaceNetからは、この研究分野で有望な結果が得られています。今後、希少種の顔認証にも応用可能な基盤となる可能性もあります。


■顔がなくても認証?
パネッタ氏は、野生動物の研究者の多くが抱える問題が画像の不足だと言います。
「残念ながら、ほとんどの動物の顔認証システムは、完璧な照明条件下で真正面から撮影された動物の顔画像を基に訓練、検証されます。」

パネッタ氏の最近の研究には、夜間に撮影された画像やドローンによる空撮画像を活用できるAIシステムが導入されています。これは、動物の移動パターンや縄張り、さらには健康状態を把握するのに役立っています。彼女が以前関わったあるプロジェクトでは、オジロジカにこの技術を応用しました。
「モーショントラップカメラで撮影された動物の画像の多くは採食中で下を向いており、顔の認識が困難です。私たちは、モーショントラップカメラで撮影したデータのほとんどに動物の顔よりも『おしり』が写っていることに着眼しました」とPanettaは言います。「この特徴を活用して、強力な動物認識システムを構築しようと考えました。それが、おそらく世界初の『おしり検出/認識アルゴリズム』です。」
彼女の研究班は現在、他の保護団体と連携し、ジャガー、ゾウ、サイといった他の絶滅危惧種にもこの技術を応用しています。


■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。


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プレスリリース提供元:@Press
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