コラム

口に出すだけで社会が変わる魔法の言葉とは?(パックン)

2023年08月25日(金)19時32分

誰もが生きやすい社会の一歩目はまず言葉から Paper Trident-iStock

<ジェンダーフルイド、エイジェンダー...。今は馴染みのない言葉でも、それを口に出すことでで意識が変わり、多くの人々にとって住みやすい社会に変わるかもしれない>

ちょっと屁理屈を言うね。

事件のニュースを伝えるとき「男は刃物のようなもので店員を切りつけた」と言ったりするよね? なんなんですか、刃物のようなものっていうぼかし方? ナイフなのか、包丁なのか、ハサミなのか、それがわからなくても、実際に切りつけているなら「刃」がついている「もの」だろうよ!大根かなんかで切り付けているとでも思っているのか?!

もちろん、事件に使われた凶器は正確に伝えたいし、捜査が終わるまで100%断定できないのがわかるが、事件関連のほかのものは全部断定しているじゃないか。犯人が逃げた場合「自転車のようなもので逃走した」と言わないし、犯人の風貌も「黒い上着のようなものを着用し、目出し帽のようなものを頭のような部位に被っていた」と説明しない。

見てわかるものはとりあえず言い切ろうよ。捜査の結果、結局大根だった場合、刃物の皆さんにお詫びすればいいから。一方、事件のニュースを伝えるなかでも最も肝心なのが犯人の説明。男が、男がと繰り返しているが、今の時代、性別はそれこそ捕まえて本人に聞くまではわからない要素ではないだろうか。

まあ、屁理屈ではある。だが今はまだそこまで進んでいないとはいえ、これからの時代、もしかしたら見た目だけで性別を判断することがご法度となるかもしれない。

「男」類にとって大きな一歩?

アメリカでは、そんな流れが数年前から急加速しているのだ。まず、生まれたときの身体的な性別と本人の性的アイデンティティーが異なるトランスジェンダーが広く認識されるようになった。その後、人生の途中で性的アイデンティーが変わり得ることを指すジェンダーフルイド(流動的な性別)、さらにはどの性別にも属しないことを意味するエイジェンダー(無性別)など、性に関して実に多様で豊かな人間の在り方、生き方をあまねく認めることを求める声が年々高まってきている。

もちろん「ふざけるな!性別は2つしかなく、生まれつきそれは決まっているのだ!」と激しく抵抗する勢力もあるが、大手メディアや学界などでは、本人の気持ちを尊重し、どんなアイデンティティーを持っていても一人一人が自由に、気持ちよく暮らせる社会を目指そう! というのが今主流な考え方といえよう(「ふざけるな!」と言っている人が、果たしてジェンダー自由な社会で気持ちよく暮らせるのかはわからないけどね......)。

アメリカでは昔から理想を実現させる手段として言葉遣いが注目されてきた。わかりやすいのは男女平等を目指した変更。アメリカの独立宣言にある「全ての人が平等に作られている」という一節での「人」はmen(男たち)と記されている。アームストロング船長が月面着陸した瞬間に発した「人類にとっての大きな一歩」という名言の「人類」もmankind(「男」類)だ。今の時代、同じことを言おうと思ったらpeople(人々)やhumankind(人類)を使うだろう。同様に1980年代以降、特に片方の性別を前提とした肩書きはジェンダーニュートラルなものに置き換えられてきた。ビジネスマンがビジネスパーソンに、チェアマン(会長)がチェアパーソンに、肉まんが肉パーソンになっているように。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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