コラム

アメリカで「でっち上げ陰謀論」が流行ったことの意味

2022年03月02日(水)14時10分

このBirds Aren't Real(鳥はウソだ)運動はもちろん陰謀論のパロディーなだけだが、それに気付かず真に受ける人もいるようだ。地元メディアも、デモ行進を取材して本物のムーブメントとして取り上げることもあるほどだ。参加者にとっては最高の「インサイドジョーク(内輪向けの冗談)」になるし、その騒動を外から見る僕らにとっても面白い。

だが、こうした現象が起き得る国や時代は怖い。何もこうしたばかばかしい陰謀論が真に受けられたことは初めてではない:

米政府は墜落した宇宙人を隠している!
ユダヤ教徒もしくは秘密結社が世界の政府や企業を牛耳っている!
月面着陸は嘘だ!

こういった、古くから伝えられている陰謀論は、出るたびに嘘扱いをされて然るべきなのに、いまだに「信じるかどうかはあなた次第」のスタンスで取り上げられてしまう。

その上......

バラク・オバマはイスラム教徒のケニア人だ!
米民主党の重鎮を中心に悪魔崇拝や児童の人身売買が行われている!
コロナ禍は製薬会社の仕込みだ!
ビル・ゲイツがワクチン接種を口実に人々の体内にチップを埋め込み監視している!

などなど、新しい陰謀論も次々と生まれている。コロナ関連だけでも10以上の有名な陰謀論がある。オミクロン株よりも、ガセネタの感染力のほうが強いようだ。 

民主主義が危機に

そして何といってもアメリカは、「オバマはケニア人説」、「ヒラリー・クリントンは人殺し説」、「地球温暖化は中国のでっち上げ説」などを広めた、れっきとした陰謀論者が大統領になってしまった国でもある。その人物は就任してからも「大統領に抵抗する政府内政府(ディープステート)がある」とか、「本当にコロナで死んだのは公式の死亡者数の6%に過ぎない」、「バイデンは選挙の不正で大統領になった」などの陰謀説を広め続けたのだ。こうした「トランプ物語」こそが真実なのに、ばかばかしすぎて陰謀論に感じてしまうね。

確かに陰謀論は面白くもある。だが、実害を伴うことを忘れてはいけない。鳥や宇宙人関連のウソは無害かもしれないが、陰謀論者の妄想では世界を牛耳っているユダヤ教徒は実際の世界では本物の差別や迫害を、過去から現在にわたって受け続けているのだ。あと、少なくとも月面着陸を否定する男性1人は月面着陸を成し遂げたバズ・オルドリン宇宙飛行士に顔面パンチされている本当の話)。小規模だがこれも実害だね。

最近唱えられている陰謀論の危険性も明らかだ。

昨年の世論調査によると「バイデン大統領の当選は正当だった」と認める共和党員は19%しかいない。彼らがバイデン政権の政策に協力するはずもなければ、今後の選挙結果を認めるはずもない。民主主義がピンチ!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story