コラム

アメリカで「でっち上げ陰謀論」が流行ったことの意味

2022年03月02日(水)14時10分

1ドル紙幣(写真)に建国時の陰謀を読み解こうとしたり、アメリカは陰謀論に事欠かない Dmytro Synelnychenko/iStock.

<若者が遊びででっち上げた陰謀論を多くの人が真に受けるほど、人は信じ込みやすい。特にアメリカでは陰謀論が大はやりだが、放置していると世界にも重大な影響をおよぼしかねない>

A:鳥はね、鳥じゃない。かつてアメリカにいた120億羽の鳥は、軍用機からばら撒かれた生物兵器で殺された。そのあと、鳥型のドローンが各地に配置され、内蔵カメラで国民を監視しているのだ。本物の鳥はもういなくて、「鳥」は全部ウソ。本当だよ......。

B:なんですって!?カラスもスズメもカモメも?

A:全部ニセモノ。政府の仕掛けたドローンなんだ。

B:今、あそこの電線に止まっている鳩も?

A:ドローンだよ。電線に止まっているのは充電中なんだ。だって、鳩のひな鳥とか見たことないだろ?

B:うーん、それはないけど......。じゃあ鳥のふんは何ですか?

A:油漏れ。

B:ほう。でも、インコを飼っている友達もいますよ?

A:あれが一番怪しい!家の中にいるペットが人間の言語を話せるって都合良すぎない?話しかけちゃだめだよ。全部録音されているから。

B:なるほど。では、お昼に食べた焼き鳥は?

A:それも偽物。ワニとかカエルとかいろいろな肉は「チキンの味がする」というだろう?それも偶然じゃないからな。

B:ふ~ん。でも、野鳥保護組織「ナショナル・オーデュボン協会」も「鳥は実在する」と断言していますよ。

A:政府の共犯だからそう言うに決まっている! 鳥のウソにお前もトリ憑かれてるじゃん!

「鳥はニセモノ」説は実在する

陰謀論を信じる人と会話をすると、だいたいこんなやり取りになる。一部だけの情報を拾い、巧みに反論をかわし、専門家から否定されたときは「その道の権威が言うからこそ怪しい」というスタンスをとる。つまり、論破されようがない完璧な防御態勢になる。

明らかに100%でたらめの陰謀論をどこまで広められるか。そんな無謀な挑戦に出たのはピーター・マッキンドーというアメリカ人の青年だ。

ニューヨーク・タイムズによると、ことの発端は2017年1月。トランプ大統領(当時)の就任直後に、米南部メンフィス市で女性の権利向上を訴えるウィメンズ・マーチの行進と、トランプ支持者のデモが同時に行われていた。当時18歳のピーターはその衝突を見て、突然動き出した。「鳥はウソだ!」とポスターの裏側に書き、それを掲げつつ街を歩きながら、思いつきのばかばかしい陰謀論を熱弁し始めた。

お遊びだけのつもりだったピーターだが、その姿を第三者が撮影してSNSに載せるとすぐさまバズり出した。「鳥はウソだ」という落書きが街に現れたり、学校の黒板や掲示板に書かれたり、シールもあちこちに貼られたりし始めた。その勢いを受け、ピーターは友達と一緒にそれっぽい「ムーブメントの歴史」を作り上げ、既存の陰謀説とリンクさせて、偽資料や証拠をでっちあげることに励んだ。そして複数の町で集会を開いたり、デモ行進を扇動したり、地元メディアの取材に答えたりして、完全にその陰謀論者になりきることにしたという。

まあ、なりきっていることを話している時点で既になりきっていないけどね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

衆院選、自民単独で300議席超 維新と合わせ3分の

ワールド

選挙終盤に響いたママの一言、「戦争の足音」感じた有

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏と11日会談 イラン巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 7
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 8
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story